細胞間同士のナノチューブの存在は、in vitroやex vivoの実験で以前から指摘されていましたが、
今回、カナダ・モンテリオール大学のAlarcon-Martinezらの研究グループは、
マウスの網膜と脳内でペリサイト同士のナノチューブを初めて可視化しました。
Retinal pericytes connect via interpericyte tunnelling nanotubes into functional syncytia that regulate microcirculatory blood flow to help to match local blood flow with neuronal activity.
ペリサイト同士のナノチューブが見えた!
著者らは、まずペリサイトを蛍光標識したマウス(NG2-DsRed)の網膜内で、
ペリサイト同士をつなぐ小さなチューブ(~500 ng)の存在を明らかにした。
このナノチューブには、内皮細胞とは別のギャップジャンクションが存在しており、
チューブ内には、ミトコンドリア、小胞、ERなどの細胞内小器官を認めた。
二光子顕微鏡では、ナノチューブ内を移動するミトコンドリアを確認し、
また、神経活動に合わせて、2細胞間でのCa2+流入量の連動も確認された。
面白いことに、神経刺激によって、一方のペリサイトが血管を拡張させると、
ナノチューブでつながったもう一方のペリサイトは血管を収縮させていた。(逆もまた然り)
レーザーでナノチューブを焼却すると、反対の動きをしていたペリサイトの連動も消えており、
Neurovascular Couplingにこのナノチューブが役割を果たしている事が示唆された。
正常状態でのナノチューブの役割がわかったところで、病的な状態で、この機能はどう変化するのか?
一時的に網膜中心動脈の血流を止めて、確認したところ、 この一時虚血によって、ペリサイト間のナノチューブの多くが壊れ、機能しなくなった。
それに呼応するように、神経刺激による毛細血管の径変化も減少した。
虚血操作前に、ニフェジピンでL型Ca2+受容体をブロックすると、ナノチューブおよび毛細血管のNuerovascular Couplingのダメージが軽減し、
このナノチューブの虚血における機能障害には、カルシウムのホメオスタシスが鍵である可能性が示唆された。
My View
今いるラボで、唯一血管の話で盛り上がれる同僚から、先日この論文が送られてきました。
彼は、ジンバブエ出身の超陽気なポスドクですが、 血管が好きすぎて、
「全ての変性疾患は血管から始まる。世界も血管から始まった。太陽でさえも!」
と、血管に対する独特の価値観を持っているかなり面白い人です。
この論文に関しては、
「Nuerovascular couplingが神経変性疾患においても重要であることを示す研究のきっかけになるかもしれない」
と興奮していました。
私自身は、ナノチューブを実際に見たことがないので、いままでは若干懐疑的な立場でしたが、
今回の論文は本当に綺麗に可視化されているので、
「あー、本当にあったんだ。しかも、ペリサイト間で。」
と興味深く読みました。
また、このナノチューブ、単なるトンネルではなく、ペリサイト同士の細胞内小器官やカルシウムの移動に関与し、
なんとNeurovascular couplingに一役買っているとの事。
今まで細動脈に近い、Proxymalペリサイトは血管系調節への関与が強く言われていましたが、
毛細血管の真ん中あたりにあるDistalペリサイトの関与は薄いんじゃないか、という人もいました。
今回の結果からは、双方のペリサイトが連動して血管系の調節をしている様子。
しかも驚いた事に、一方の血管が拡張すると、もう一方の血管が収縮する… これはかなり意外。
活動神経周囲の血管は軒並み拡張して血流量を上げると思っていたので。
Neurovascular Couplingは、一般に考えられているよりもさらに複雑なのかもしれません。
いずれにしても、神経変性疾患をメインに研究している私達にとっては、
この機能がアルツハイマー病やパーキンソン病などでどう変化しているか、が最も気になる所です。
一見intactに見える血管でも、実はナノチューブだけ壊れていて、
Neurovascular couplingに影響しているのかも。
…見てみたい。
Reference
- Alarcon-Martinez, L., Villafranca-Baughman, D., Quintero, H. et al. Interpericyte tunnelling nanotubes regulate neurovascular coupling. Nature (2020). https://doi.org/10.1038/s41586-020-2589-x