留学先のPIに誘われ、急遽やってきた国際学会。
1日目は、PIと一緒に、お目当ての基調講演を聴きにいきました。
講演者は、PIのAcademic Chirdrenの一人で、現在はCo-PIの跡を継いで、施設の新ディレクターをしています。
基調講演会場で席についていると、色々な人たちが次から次へとPIに挨拶しにやってきました。
「やあ!会えて嬉しいよ。」
「久しぶり!元気してた?」
そして、人々が挨拶にくる度に、彼女は私のことを紹介してくれました。
御婦人に「初めまして」
基調講演が終わると、先ほど講演を終えたばかりの新ディレクターと一緒に、年配の御婦人がやってきました。
「今から一緒にランチ食べない?」
「いいね!行こう!あなたも行くでしょう?」
とゆーことで、私は彼らと一緒にランチに行くことに。
PIと御婦人が前方で話をしている間、新ディレクターが私に説明してくれました。
「御婦人のこと知ってる?PIが数十年前にN誌に◯◯を発表したときの、First Authorだった人だよ。今は、△△の大家で、私生活ではM氏のパートナー。」
……その論文なら、何十回と目にしてきました。
それに、パートナーのM氏は、PIとどちらが先にNobel賞をとるかと噂されるほど時の人で、彼が来日したときには、私はアテンドとして濃密な時間を過ごさせてもらっていました。
「ああ、あの!」
名前は存じあげていましたが、お顔を拝見するのは初めてです。
そうこうしていると、PIがくるっと振り向いて、私を御婦人に紹介してくれました。
「この人は私の教え子の一人で、今日本でFacultyをしているのよ。」
「初めまして。お会いできて光栄です。」
私は笑顔で挨拶しました。
すると、御婦人は答えました。
「初めてじゃないわよ。私達、以前会っているわよね?」
―― え?
私は一生懸命考えましたが、こんな有名人に会ったことがあれば、忘れるはずはありません。
「いや、多分初めてだと思うけど……。」
私が答えると、御婦人は、一瞬キョトンとして、
「ああ、そうだったの。私の勘違いかな。」
と言いました。
たくさん話をしていると……
ランチの後、PIはシャワーを浴びに一旦家に帰るというので、私はその後の講演からレセプションまで御婦人と行動を共にすることになりました。
御婦人はとても話好きで、私達は研究やそれ以外の話でかなり盛り上がりました。
夕方、レセプション会場に向かう道すがら、御婦人は言いました。
「なんだかんだで、アメリカは久しぶりだわ。この前来たのは、Co-PIのメモリアルシンポジウムの時だったから、2年ぶりね。」
その言葉を聞いて、私は驚きました。
「え、あのシンポジウムきてたの?私、その時、発表してたよ。」
バタバタしながら迎えた金曜日。 午前中には、プレゼンテーター達の何人かがラボを訪れると聞いていましたが、私にはちょっとお腹いっぱいだったので、ラボには顔を出さず、ちょっと遅れて出勤し、直接会場に向かいました。   …
―― ああそうか!御婦人は、あのシンポジウムで私の発表を聞いていて、それで私のことを知ってくれていたんだ!
私は腹落ちし、彼女に言いました。
すると彼女はニヤリとして答えました。
「ええ、知ってるわ。」
―― え、ちょっと待って……あの時……
やっぱり会ってた
メモリアルシンポジウムでは、PIとCo-PIの数十年来の友達であるM氏も講演者として招待されていました。
シンポジウムの後、彼は私の元にやってきて、
「すごく良い発表だったよ。」
と、握手をしてくれました。
そしてその時、彼の隣には奥さんと思われる人物が。
「私、あなたの発表が一番素敵だったと思うわ。」
そう言って私の手を握ってくれたあの御婦人は……今、眼の前にいる御婦人だったような。。。
あの時は、彼の隣の人物を、「奥さんかな?」くらいにしか認識しておらず、私が何十回と目にしていた論文の著者だとか、△△の大家だとか、そんな情報を持ち合わせていませんでした。
「……もしかして、私達って、あの時会って話をしていた?」
私が恐る恐る尋ねると、彼女は再びニヤッとして、
「ええ。」
Alas!……私はやっぱり彼女と会って、話をしていました。
―― 嗚呼、こんなに何時間も一緒に行動していて、今の今まで気が付かなかったなんて、、、なんと失礼なことを。。。。
逆なら起こり得ますが、私の方が忘れるとか、通常ならあり得ません。
いい人で良かった
「覚えていなくて、ほんっとーにごめんなさい!」
私は慌てて謝りましたが、彼女はサラリと言いました。
「私は最初からわかっていたわよ。やっぱりあなただって。あの時は、あなたのところにたくさんの人たちが挨拶しにきてたから、私のことを覚えていないのも無理は無いわ。今日はあなたとこんなに楽しい時間を過ごせて本当に良かったわ。これからも仲良くしてね。」
……いやはや、いい人でホント良かったです。
でも、いつ何時こんな事態になるかわからないので、「今度からは、論文の著者名だけじゃなくて、気になった人はネットで写真もチェックしておこう。」と、思いました。