音と光でアルツハイマー病を治す(GENUS)

アルツハイマー病(Alzheimer's deisease:AD)では、神経活動が異常となり、これがさらにAD病理を悪化させる事が知られている。

ガンマ振動(gamma oscillations)と呼ばれる、神経活動の30-90Hzの波長は、高次認知機能に関連があり、ADモデルマウスではこの波長が障害される。

マサチューセッツ工科大学のLi-Huei Tsaiらは、以前、オプトジェネシスによりガンマ振動を誘発できること、さらに一次視覚野に40Hzの視覚的な刺激(gamma entrainment using sensory stimuli: GENUS)を与え、ミクログリアを活性してアミロイド病理を軽減できる事を明らかにした(Iaccarino et al., Nature, 2016)。

今回は、ADでさらに影響を受ける部位、海馬や内側内側前頭皮質を狙って、「音刺激」を行い、GENUSが認知機能やAD病理の改善を促すかどうか調べた。

音と光でアルツハイマー病を治す(Cell, 2019)

音と光でアルツハイマー病を予防

音と光でアルツハイマー病を治す

40Hzの音刺激は聴覚野、海馬、前頭前野での神経発火同期を促す

野生型マウス(3-8カ月)に20Hz, 40Hz, 80Hzのさまざまな音刺激を行ったところ、聴覚野、海馬、前頭前野で、40Hzの音刺激に反応して神経活動の同期発火がみられた。  

聴覚的GENUSは5×FADマウスの認知機能を上げる

次に、6カ月齢の5×FADマウス(Aβ産生↑)に1h/dayの間隔で40Hzの音刺激(GENUS)を行い、新規物体認識試験、新規物体場所試験、モリス水迷路試験を行った。 全てのテストで、GENUSは認知機能改善を示した。12カ月齢の老齢マウスにも同様のGENUS+行動解析を行ったが、老齢マウスではGENUSの効果はみられなかった。  

聴覚的GENUSは聴覚野と海馬でのアミロイドβの量を減らす

6カ月齢の5×FADマウスに40Hz、8Hz、80Hz、ランダム周波数のさまざまな音刺激を1h/day間隔で7日間行い、脳内のAβの量を測定した。すると、40Hzの刺激の時のみ、可溶性/不溶性Aβ42の量が減少し、聴覚野や海馬(CA1)のAβプラークの数が減少していた。  

聴覚的GENUSは、グリアの活性化と血管拡張を促す

さらに、Aβ量の減少した部位(聴覚野と海馬)のグリアの様子を調べたところ、ミクログリアやアストロサイトの数が増加していた。 また、同部位の血管系は1.5-2倍程度に拡張していた。  

聴覚的GENUSはタウのリン酸化やseedingも減らす

P301S変異のタウマウスにも同様の実験を行ったところ、海馬でT181のリン酸化が減少していた。FRETを使ったin vivo seedingアッセイでも、タウのseedingが減少した。  

聴覚的GENUSと視覚的GENUSの組み合わせで効果倍増

40Hzの音刺激と40Hzの光刺激を同時に行い、その効果を検証したところ、音+光刺激では、ミクログリアはより活性化した形態を呈していた。 また、音+光刺激では、聴覚野や海馬だけでなく、内側前頭前野のAβ1-42の量及びAβプラークの量も減少していた。  

My View

2年ほど前に視覚的GENUSの論文を読んだ時は、結構衝撃的だなーと思いました。

「ほんとにこんなことがあるのかな?」と思いながらも、ほんとだったらかなり画期的なアプローチ法だと感じました。

マウスだけでなく、ヒトでも同様の効果が認められれば、パチパチと40Hzで点滅する光を見ているだけで、アルツハイマー病の発症を予防できるかもしれないからです。

わかりやすく解説した動画があるので、紹介します。

ただ、視覚野や後頭葉の一番後ろにあるので、そのあたりのAβ量が減っても、記憶に最も関連する海馬や内側側頭葉、前頭葉まではちょっと遠い場所にあります。

今回は、同じ波長で聴覚刺激を行い、より海馬などに近い聴覚野を刺激する、というコンセプトでGENUSを行いました。

結果、予想通り「聴覚野ー海馬のグリアが活性化し、同部位のAβを貪食してクリアランスUP、認知機能も改善する」という、いいことづくめの内容でした。

また、聴覚的+視覚的GENUSの組み合わせで、グリアの活性化をさらに促し、より広範な部位でAβ量を減少させることに成功しました。

ちなみに、40Hzの音刺激はYou Tubeにもアップされています

毎日少しずつ聞いていれば、アルツハイマー病を予防できるかも!?

すでにAβ量がマックスに達したAβ老齢マウスでは効果がなかったようなので、いまのうちからコツコツと……