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アルツハイマー病(Alzheimer’s disease:AD)では、病初期から海馬などの一部の神経回路に過剰な活動がみられます。また、ADを含むさまざまな神経変性疾患では、古典的補体経路の開始因子であるC1qが脆弱なシナプスに沈着し、シナプス喪失に関与することが報告されています。

発達期の脳では、過剰に形成されたシナプスが神経活動に応じて除去され、成熟した神経回路が形成されます。特に発達期の視覚系では、C1qとC3が不要なシナプスの除去に関与し、ミクログリアが補体受容体CR3を介して活動性の低いシナプスを取り込むことが示されています [1, 2]

さらにADモデルでは、この発達期のシナプス剪定機構が異常に再活性化され、アミロイド斑が形成される前から、C1qとミクログリアに依存したシナプス喪失が起こると考えられています [3]

しかし、成体脳において、

何をきっかけにC1qが特定のシナプスへ沈着するのか

という点は、よく分かっていませんでした。

今回、UK Dementia Research Institute at University College London(UCL)のDr. Soyon Hongらの研究グループは、「局所的な神経活動の亢進が、B細胞系の抗体分泌細胞によって産生される抗原特異的IgMを介してC1qをシナプスへ動員し、選択的なシナプス喪失を引き起こす」ということを報告しました [4]

神経活動が抗体を呼び、C1q依存性シナプス喪失を引き起こす

彼らは、内側嗅内皮質(medial entorhinal cortex:MEC)第II層から海馬歯状回分子層(dentate gyrus molecular layer:DGML)へ投射する貫通路を対象としました。

野生型マウスでは興奮性DREADDを用いて貫通路の活動を高め、J20 ADモデルマウスでは抑制性DREADDを用いて過剰活動を低下させました。

ウイルスは片側のMECに注入され、神経活動を操作した同側と、操作していない対側とを同一個体内で比較しました。

さらに、超解像イメージング、空間トランスクリプトーム、B細胞受容体シーケンス、細胞追跡、および複数の遺伝子改変マウスを組み合わせて、神経活動、免疫グロブリン、C1q、シナプス喪失の関係を検討しました。

神経活動の亢進はC1q沈着と選択的なシナプス喪失を誘導する

興奮性DREADDによってMEC第II層の神経活動を高めると、その投射先である同側DGMLに、局所的なC1q沈着が認められました。

興味深いことに、減少したのは直接活性化された貫通路のVGLUT1陽性終末ではなく、同じ領域に混在するVGLUT2陽性シナプス前終末でした。シナプス後部マーカーであるHomer1にも変化はありませんでした。

つまり、活動性の高いVGLUT1陽性入力そのものではなく、近傍にある別のVGLUT2陽性入力が選択的に失われました。

神経過活動を抑えるとADモデルのC1q沈着が減少する

神経回路の過剰活動を示すJ20 ADモデルマウスでは、抑制性DREADDを用いて貫通路の活動を低下させました。

その結果、同側DGMLにおいて、局所AβとC1q沈着が減少し、Homer1陽性シナプス後部が部分的に回復しました。

ただし、シナプス前部のBassoonとシナプス後部のHomer1が共局在するシナプス数には、有意な回復が認められませんでした。

C1qは神経活動依存性シナプス喪失に必要である

神経活動を亢進させた側では、C1qと共局在するVGLUT2陽性終末の割合が増加しました。一方、VGLUT1陽性終末とC1qとの共局在には変化がなく、C1qがVGLUT2陽性終末を選択的に標識していることが示唆されました。

C1qaノックアウトマウスでもDREADDによる神経活動の亢進は正常に起こりましたが、VGLUT2陽性終末の減少は認められませんでした。

このことから、C1qは神経活動依存性シナプス喪失に必要であると考えられます。

一方、ミクログリアのCD68、P2Y12、Iba1などには明らかな変化がありませんでした。そのため、ミクログリアの機能が亢進したというより、既存のC1qを特定のシナプスへ誘導する仕組みが働いた可能性が考えられました。

空間トランスクリプトーム解析では、神経活動を亢進させた海馬で、Igha、Igkc、Ighm、Jchainなどの免疫グロブリン関連遺伝子が増加していました。

抗体分泌細胞が海馬周囲の軟髄膜ニッチに集積する

単一細胞レベルの空間トランスクリプトーム解析により、神経活動を亢進させた海馬には、Prdm1、Xbp1、Sdc1、Slamf7などを発現する形質芽細胞・形質細胞が存在することが示されました。

これらの抗体分泌細胞はIgA、IgG、IgMを産生していましたが、その多くは脳実質の深部ではなく、海馬裂や中間帆など、海馬に接する軟髄膜領域に局在していました。

B細胞受容体シーケンスとKaedeマウスによる細胞追跡から、少なくとも一部の細胞は、頭蓋骨骨髄および/または硬膜髄膜に由来する可能性が示されました。

分泌型かつ抗原特異的なIgMがC1q沈着に必要である

超解像イメージングでは、IgMがC1q陽性VGLUT2陽性終末の近傍に認められました。

さらに彼らは、異なる機序でB細胞やIgMの機能を変化させた3種類のマウスを解析しました。

  • μMTマウス:成熟B細胞、形質細胞および免疫グロブリンを欠く
  • sIgM KOマウス:抗体分泌細胞は形成されるが、分泌型IgMを産生できない
  • MD4マウス:ニワトリ卵白リゾチーム(HEL)特異的IgMを産生するが、HEL以外の抗原を認識する抗体を産生できない

いずれのマウスでも、神経活動の亢進自体は正常に起こりましたが、C1q沈着とVGLUT2陽性終末の減少は認められませんでした。

この結果から、単にB細胞やIgMが存在するだけではなく、

脳内の何らかの抗原を認識する、分泌型かつ抗原特異的なIgM

が必要であると考えられました。

神経過活動により、野生型マウスでC1q沈着が誘導されましたが、μMT、sIgM, MD4マウスでは誘導されませんでした。

これらの結果から、B細胞系細胞および免疫グロブリンが神経活動依存的なC1q沈着に必要であり、条件によってはシナプス喪失にも必要であることが支持されました。

一方、J20 ADモデルでは、B細胞と形質細胞を除去しても、C1q沈着とシナプス喪失は改善しませんでした。

したがって、今回示されたIgM–C1q経路は、健常成体脳に急性かつ局所的な神経過活動を誘導した場合には重要ですが、慢性的なAβ病態におけるC1q沈着を普遍的に説明する機構ではない可能性が考えられました。

結果のまとめ

以上の結果から、著者らは以下のようなモデルを提唱しました。

提唱モデル

神経活動の亢進
 ↓
抗体分泌細胞が海馬周囲へ集積
 ↓
抗原特異的IgMを分泌
 ↓
IgMがVGLUT2陽性終末上の未知の抗原に結合(推定)
 ↓
C1qがシナプスへ動員される
 ↓
補体依存性シナプス喪失

My View

発達期のC1q–C3–CR3依存性シナプス剪定は、これまで主にニューロン、補体、ミクログリアによる自然免疫系の機構として理解されてきました。

今回、その上流にある「どのシナプスへC1qを配置するのか」という段階に、神経活動、B細胞系細胞、そして抗体が関与する可能性が示された点が、興味深いと思いました。

特に、抗体分泌細胞が海馬実質へ無秩序に浸潤するのではなく、海馬に隣接する軟髄膜ニッチに集積していたことが印象的でした。近年、頭蓋骨骨髄や髄膜に存在する免疫細胞が注目されていますが [5]、局所的な神経回路活動に応答する免疫ニッチとしての機能も重要なのかもしれません。

本研究の強みは、C1qaノックアウト、μMT、sIgM KO、MD4という複数の遺伝子改変マウスを使用し、C1q、B細胞、分泌型IgM、IgMの抗原特異性の必要性を段階的に示したことかと思います。また、空間トランスクリプトーム、B細胞受容体シーケンス、細胞追跡、超解像イメージングなど、多様な手法によって結果を検証している点も手堅いな、と感じました。

一方、今回はC1qより下流のシナプス除去機構は直接示されていません。

発達期のシナプス剪定からは、

C1q
C3b/iC3bによるオプソニン化
ミクログリアCR3による認識と貪食

という経路が予想されます。

しかし、本研究ではC3/iC3bのシナプスへの沈着、CR3の必要性、ミクログリアによるVGLUT2終末の取り込みは検証されていません。

このため、C1qがこのモデルにおけるシナプス喪失の必要条件であることは示されましたが、C1qのシナプス沈着後に、どのような機序でシナプスが消失するのかについては、まだ推測の域を出ていないと思います。

また、IgMが認識するシナプス抗原についても、今回はブラックボックスのままです。選択的に失われるVGLUT2陽性終末が、ホスファチジルセリン、酸化脂質、ガングリオシドなど、どのようなeat-me signalを提示しているのかが、次の重要な課題といえるかもしれません。

さらに、J20マウスではB細胞や形質細胞を除去しても表現型が改善しなかったため、この機構をADにおけるシナプス喪失の機序へ一般化することについては、慎重になるべきだと思います。

 

などなど、いくつか今後の課題も残しつつも、神経活動、髄膜免疫ニッチ、抗体、補体を一つの経路として結びつけた点で、自然免疫と獲得免疫の相互作用による神経回路制御を示す、とても興味深い研究だと思いました。

Glossary

C1q

古典的補体経路の開始因子。成体脳では主にミクログリアによって産生され、発達期や神経変性疾患におけるシナプス除去に関与する。

シナプスプルーニング

発達期などに、過剰または不要なシナプス結合を選択的に除去し、神経回路を最適化する過程。発達期の視覚系では、C1q、C3およびミクログリアのCR3が関与する。

DREADD

Designer Receptors Exclusively Activated by Designer Drugs。人工的に改変した受容体を特定の細胞に発現させ、外部から投与する薬剤によって細胞活動を操作する方法。

貫通路

嗅内皮質から海馬へ情報を伝える主要な神経投射。本研究では、MEC第II層から歯状回分子層への投射を対象として実験が進められた。

VGLUT1とVGLUT2

グルタミン酸をシナプス小胞内へ取り込む小胞型グルタミン酸トランスポーター。

貫通路の終末は主にVGLUT1陽性だが、本研究で選択的に減少したのは近傍のVGLUT2陽性終末だった。

抗体分泌細胞

Antibody-secreting cells(ASCs)。抗体を産生・分泌する形質芽細胞および形質細胞の総称として使われている。

C3b/iC3bとCR3

C3bとiC3bは標的表面に沈着する補体オプソニン。iC3bはミクログリアなどが発現するCR3によって認識され、標的の貪食を促す。

References

  1. Stevens B, Allen NJ, Vazquez LE, et al. The classical complement cascade mediates CNS synapse elimination. Cell. 2007;131:1164–1178. doi:10.1016/j.cell.2007.10.036.
  2. Schafer DP, Lehrman EK, Kautzman AG, et al. Microglia sculpt postnatal neural circuits in an activity and complement-dependent manner. Neuron. 2012;74:691–705. doi:10.1016/j.neuron.2012.03.026.
  3. Hong S, Beja-Glasser VF, Nfonoyim BM, et al. Complement and microglia mediate early synapse loss in Alzheimer mouse models. Science. 2016;352:712–716. doi:10.1126/science.aad8373.
  4. Crowley G, Kim M, O’Neill N, et al. C1q and immunoglobulins mediate activity-dependent synapse loss in the adult brain. Science. 2026;393(6807):eadv1219. doi:10.1126/science.adv1219.
  5. Brioschi S, Wang WL, Peng V, et al. Heterogeneity of meningeal B cells reveals a lymphopoietic niche at the CNS borders. Science. 2021;373:eabf9277. doi:10.1126/science.abf9277.