アストロサイトとミクログリア

死んだ細胞を処理するのは主にミクログリアと考えられていますが、特殊な環境下ではアストロサイトの貪食も確認されていました 1

ニューロンが死ぬ時に出す、"eat-me" シグナルの一つにphosphatidylserineがありますが 2, 3

そのシグナルをキャッチして細胞骨格を変化するのに必要な Axl Mertk 等は、ミクログリアにもアストロサイトにも発現しています 4, 5 。

 

今回、アメリカ・イェール大学のGrutzendlerらの研究グループは、弱った神経細胞を、ミクログリアとアストロサイトの両者で連携して処理しているということを明らかにしました 6 。

アストロサイトとミクログリアの共同作業

彼らは以前確立した、two-photon chemical apoptotic targeted ablation (2Phatal) 法を使いました 7

まず、マウス脳の目的の細胞に、核酸に結合するdyeを注入し、dyeが入った神経をfemtosecond-pulsedレーザーで照射します。

すると、周辺組織には影響を与えずに、目的の細胞だけアポトーシスを起こすことができます。

彼らは、グリアををそれぞれ蛍光標識しておき、神経細胞がアポトーシスした時にグリアがのような動きをするか観察しました。

 

結果、ミクログリアもアストロサイトも神経細胞がアポトーシスを起こした2,3時間以内にそれぞれ突起を伸ばし、

ミクログリアは死細胞まで移動してその細胞体を貪食し始めました。

NG2+細胞も6時間後に動き始め、死細胞の残骸があった場所へ移動しました。

 

ミクログリアは、細胞体とその近くの神経突起を貪食したのに対し、

アストロサイトは、先の方の神経突起を処理していきました。

 

ミクログリアと違って、アストロサイトはあまり動いていないので、

アポトーシスの前からすでに触れていた突起部分を中心に貪食している可能性が示唆されました。

 

eat-meシグナルを受け取り、貪食するのに必要なMerkとAxlをそれぞれ欠失したマウスで2Phatalを行ったところ、

Mertk-/-ではミクログリアの貪食能の低下が確認されました。

Axl-/-マウスでは有意な差はありませんでしたが、

両者をかけ合わせたMertk-/-;Axl-/-マウスではより顕著に貪食能が低下しました。

 

また、ミクログリアの貪食スピードが下がると、

アストロサイトの突起の分化やリソソームのリクルートメントが下がり、

アストロサイトの死細胞処理能力はミクログリアの貪食スピードに影響を受ける事が示唆されました。

 

ミクログリアがなかったら、アストロサイトはどのような動きをするのでしょうか?

CSF1R阻害剤のpexidartinib (PLX3397)を処置してミクログリアを除去してから、2Phatalを行うと、

アストロサイトは、死細胞を丸呑みはしませんでしたが、

死細胞周囲のたくさんのアストロサイトが突起を伸ばし、

死細胞は徐々に小さくなっていきました。

このことから、ミクログリアがない場合、アストロサイトは少しずつ死細胞をかじるようにして処理していくと考えられました。

 

最後に、このミクログリアとアストロサイトの共同作業が加齢によってどのように変化するのか、

26–28 mo のマウスに2Phatalを行って確認しました。

すると、ミクログリアとアストロサイトの動きに明らかな遅延を認め、

死細胞除去機能が加齢によって低下する事がわかりました。

ただ、MERTKタンパクは加齢で減少しないので、詳細なメカニズムについては今後の検討課題、ということです。

References

  1.  Morizawa, Y.M., Hirayama, Y., Ohno, N. et al. Reactive astrocytes function as phagocytes after brain ischemia via ABCA1-mediated pathway. Nat Commun 8, 28 (2017). https://doi.org/10.1038/s41467-017-00037-1
  2. Tufail Y, Cook D, Fourgeaud L, et al. Phosphatidylserine Exposure Controls Viral Innate Immune Responses by Microglia. Neuron. 2017;93(3):574-586.e8. doi: 10.1016/j.neuron.2016.12.021
  3. Brelstaff J, Tolkovsky AM, Ghetti B, Goedert M, Spillantini MG. Living Neurons with Tau Filaments Aberrantly Expose Phosphatidylserine and Are Phagocytosed by Microglia. Cell Rep. 2018;24(8):1939-1948.e4. doi: 10.1016/j.celrep.2018.07.072
  4. Ye Zhang, Kenian Chen, Steven A. Sloan, Mariko L. Bennett, Anja R. Scholze, Sean O'Keeffe, Hemali P. Phatnani, Paolo Guarnieri, Christine Caneda, Nadine Ruderisch, Shuyun Deng, Shane A. Liddelow, Chaolin Zhang, Richard Daneman. An RNA-Sequencing Transcriptome and Splicing Database of Glia, Neurons, and Vascular Cells of the Cerebral Cortex.
  5. Cahoy JD, Emery B, Kaushal A, et al. A transcriptome database for astrocytes, neurons, and oligodendrocytes: a new resource for understanding brain development and function. J Neurosci. 2008;28(1):264-278. doi: 10.1523/JNEUROSCI.4178-07.2008
  6. Damisah et al., Astrocytes and microglia play orchestrated roles and respect phagocytic territories during neuronal corpse removal in vivo. Science Advances 26 Jun 2020: Vol. 6, no. 26, eaba3239, doi: 10.1126/sciadv.aba3239
  7. Hill RA, Damisah EC, Chen F, Kwan AC, Grutzendler J. Targeted two-photon chemical apoptotic ablation of defined cell types in vivo. Nat Commun. 2017;8:15837. Published 2017 Jun 16. doi: 10.1038/ncomms15837