年の瀬、各誌この1年のブレイクスルーや来年の展望etc.をまとめています。
今回は、Nature誌の ”2020年に注目すべきサイエンスイベント” から。
火星に突撃
2020年は火星侵略の年になりそう……との事。
アメリカ航空宇宙局(NASA)、中国、ロシア、アラブ首長国連邦 etc.が、それぞれロケットを火星に飛ばし、サンプル収集をしたり、ドローンやローバーを配置したり、といった計画を立てている模様。
その他、中国は月面着陸探査機Chang’e 5を月に送る事も計画しているし、日本のはやぶさ2はリュウグウから、NASAのOSIRIS-RExはベンヌからそれぞれサンプルを持ち帰ってくる予定。
楽しみです。チームはやぶさ2、頑張れ!
広大な宙の膨大なデータ
今年、Event Horizon Telescope (EHT) から報じられたブラックホールのイメージ画像のニュースには私も興奮しましたが、今度は、私達のいる天の川銀河の中央のブラックホールの撮影に取り組んでいるそうです。
また、欧州宇宙機関のガイア計画は天の川の3Dマップのデータを更新する模様。
他、重力波天文学者たちは、時空の波紋の解析による、宇宙の衝突のデータを発表する予定との事。
これらのデータの中には、ブラックホールの融合のデータだったり、それまで観測されていなかったブラックホールと星の衝突のデータも含まれているとの事。
専門知識は全くないものの、個人的には特に興味がある分野。目が離せません。
超大型衝突型加速器
欧州原子核研究機構(CERN)は、将来の超大型衝突型加速器の実現化に向けて、予算申請をしている様子。
CERNは100kmの大きさの衝突型加速器を建設しようとしていて、いままでの大型ハドロン衝突型加速器(LHC)の6倍のパワーを出せるとの事。費用は210憶ユーロ……日本円で約2.5兆円くらい?
凄い規模ですね。
アメリカでは、シカゴのFermi National Accelerator Labからミュー粒子g-2の解析結果が発表される予定との事。
……うーん、高校までは物理好きだったけど、ここらへんの話は難しすぎて具体的な事はよくわかりません。LHCの仕組みに関しては、ちょっと前にヒッグス粒子の発見と測定のニュースで簡単に説明されていましたが、「大掛かりな装置だなー。」というのが第一印象でした。安全性への危惧とか予算がかかりすぎなどの批判もちらほらあるようですが、それらの反論を跳ね返す結果を期待したいです。
合成酵母菌
パンの酵母菌を合成するという話。
科学者たちは、すでに単純な細菌ー例えばMycoplasma mycoidesー等の合成には成功していたけれど、今度はもっと高等な生物、酵母菌の合成に挑戦しているそう。
今いるラボでは、あるタンパクの凝集について研究しているのですが、”合成タンパクから創り出した凝集体と私達の脳内のタンパク凝集体とでは高次構造と性質が異なる” という事を強調しているので、PIが嫌いそうな内容かも……。
かなり難しそうな印象ですが、当事者たちには手ごたえがある様子。
より複雑な機構をどうやって再現するのか……最近の技術はすごいな。
地球温暖化対策
8月、国連環境計画(UNEP)は、大気中の二酸化炭素を減らすetc.、地球温暖化対策に使えそうな地球工学技術について報告する予定。
また、国際海底管理局(ISA)は、海底を掘り下げる事を許可する規則を発令する予定との事。これがどれくらい海中の生態系にダメージを与える事になるかは不明……
11月にはイギリスのグラスゴーでCOP26環境会議が開催されるので、注目すべきところ……アメリカはパリ協定離脱を正式通告したけれども……どうなるでしょうか。グレタさんのスピーチはあるのかな?
アメリカの大統領選挙
11月にアメリカ大統領選挙が行われますが、科学界にとっては一大事の出来事——特に気候関連分野には。
トランプ大統領の再選が決まれば、選挙の翌日にパリ協定を脱退するそう。
トランプ政権になってから重要な研究機関の予算は大幅に削減されているし、個人的には民主党に政権奪還してほしいと思っているのですが……選挙権がないので、傍観するしかありません。
”人間ネズミ” の登場
臓器移植用の人間の臓器を、他の動物で作れたら……という夢のような話が現実に近づいてきました。
東京大学の中内教授の研究室では、ヒト由来幹細胞マウスやラットの胚細胞に注入し、それらの生体内でヒトの臓器を作製する研究を進めているそうです。
彼らはこの胚細胞を代理動物に移植を試みる予定との事。
さらに豚の胚細胞でも同様の実験を行っているとの事で、最終ゴールは、動物の胚で作った人間の臓器を人間の臓器移植に使用できるようにする事。ドナーを待ちながら亡くなっていく患者さん達を救えるようになるかもしれません。
人間への臓器移植に使えるようになるにはさらに数々の障壁がありそうですが……頑張ってほしいです。
”蚊” への反撃
蚊は、デング熱、チンクグニア熱、ジカ熱 etc.、様々な伝染病を媒介します。
このようなウイルスに感染した蚊が繁殖できないようにする研究が進められています。
研究者達が目をつけているのは、”ボルバキア” という細菌。
この細菌の面白い所は、「オスに感染したボルバキアは、同じ株に感染していないメスが妊娠しないようにする。」というもの。自己のDNAをより優位に残しやすくしようとしているものを考えられています。
すでにインドネシア、ベトナム、ブラジルで小規模の実験が行われ、有効性が確認されています。
エクアドルのギニア湾のビオコ島でも、マラリアのワクチン試験が予定されているそう。また世界保健機関(WHO)は、ツェツエバエが媒介する寄生虫トリパノソーマによって引き起こされるアフリカ睡眠病(sleeping sickness)を減らそうとしているとの事。
うまくいってほしいです。
圧力が鍵
低温のある温度以下では、物質の電気抵抗がゼロになる現象を超電導現象と呼びますが……
物理学者たちは、室温でも超電導をを起こす事ができる物質の開発に手が届きそう、との事。
ただし、これらの超電導物質は、今のところ数百万キロパスカルの圧力が必要だそうです。
2018年には、ランタン酸化物が ”最も低い温度での超電導” の記録を破りましたが、科学者達は、イットリウム系超伝導体は53℃までイケる、と期待しているとの事。
専門外なので詳細は分かりませんが、現在、超電導を適用した機器(MRI等)の世界市場規模は数千億円ともいわれているそう。省エネ技術としても期待されているようです。
手堅くエネルギー改革
太陽電池のソーラーパネルによく使われるのは、今のところシリコンですが、より安価で簡単にエネルギーを生み出すペロブスカイト太陽電池が注目されています。
2020年の東京オリンピックに向けて、トヨタ社が、従来のリチウムイオン電池に変わる ”全個体電池” を搭載された電動モビリティ開発を進めているそうです。
全固体電池は、従来のリチウムイオン電池で使用されている電解液・セパレータを固体電解質に置き換えて高密度化することで、イオンの移動速度を上げ、より小型でより多くのエネルギーを蓄えることができるのだとか。ただし、充電時間がかかるなどの課題もあるようです。
がんばれ、日本!