「余計な事に気をとられず、タスクフォーカスしたい!」と思っているのは、私だけじゃないはず…
世の中にはタスクフォーカスのトレーニング法の本なども多数出版されており、需要は多いんじゃないかと思います。
時々「今日は集中できたー」と思う事があり、そんな時はちょっと賢くなったような気になりますが、
実際のところ、(少なくともマウスでは)賢くなる方向に神経回路が変化するみたいです。
今回、アメリカ・ニューヨーク大学の Dr. Fenton らの研究群は、
「マウスにタスクフォーカスのトレーニング(cognitive control training, CCT)をしたら、海馬ー歯状回のシナプス回路が変化して賢い判断ができるようになった」
という事を報告しました [1]。
タスクフォーカスのトレーニングをしたら頭がキレッキレになる……ということをマウスで実証
彼らは、回転する台(1rpm)の上に一匹ずつマウスを入れました。
この台は回転するだけじゃなくて、床から0.2-0.3mAの電流が60Hzの間隔で流れるようになっています。
台の周りにはいくつか目印を置いて、マウスがその目印を参照して位置細胞を使って自分の位置を確認できるようにします。
床には60°の扇形の部分でのみ電気ショックが与えられますが、この場所は、部屋の位置情報を元に固定されていて、そのエリアにマウスが足を踏み入れると電気ショックを与えるようになっています [2, 3, 4, 5, 6, 7]。
この状態で、マウス達には2つの情報が与えられます。
- Roomキュー: 部屋の周りの目印(視覚的情報)
- Arenaキュー: 床上の自分の糞や尿、設置されたお酢などの匂い
▲ トレーニングのイメージ。Wesierska et al., J Neurosci, 2005[3]より拝借。
CCTの効果をみるため、著者らはマウス達を3群にわけてトレーニングしました。
- CCT群: (R+A-環境)
- マウスはRoomキューとAreanキュー両方の情報が与えられ、AreanキューではなくRoomキューで電気ショックの位置を予測するトレーニングを受けます(Arenaは回転しているけど、電気ショックの位置は部屋の視覚的情報で固定されるから)。
- Place Learning (PL) 群: (R+環境)
- 台を1%食塩水で浅く満たし、床上の匂い(Arenaキュー)が確認できないようにします。
- Spacial exploration (SE) 群:
- 電気ショックエリアはなく、マウスは回転台の上を自由に探索します。
CCT群では、「床の上の匂いに注意を削がれないで、部屋の目印にタスクフォーカスして電気ショックエリアを回避する」というトレーニングを受ける事になります。
この3群で3日間イニシャルトレーニング(Ti)を行ったあと、サブシークエントトレーニング(Ts)としてマウス達はさらに3日間、別に用意されたアリーナ(電気ショックの位置や目印の位置が違う)に入れられ、全員がR+A-環境のトレーニングを受けます。
この状態で、T-maze テスト(T字の迷路上で、1回目は左、2回めは右、3回目は左、のように両碗の電気ショックの位置を変えて、マウスが電気ショックを避ける道を選択できるかみるテスト)で認知機能をみると、
CCTトレーニングを受けたマウスでは、他の群のマウスと比べて、電気ショック側をより賢く回避する事ができるようになっていました。
また電気生理で、CCTトレーニング群では嗅内皮質ー歯状回の抑制系神経回路の活動が変化しており、
その変化は、通常の生活に戻した後も持続していました。
以上の結果から、
「周りの情報にディストラクションされずにタスクフォーカスできるトレーニングを受けると、嗅内皮質ー歯状回の神経回路機能が変化し、賢く選択できるようになる」
という可能性が示唆されました。
Studies in mice show that cognitive control training rapidly improves brain circuit function and enhances subsequent learning, which both persist for months.
・
・
・
なんと、トレーニング中だけじゃなくてその後も効果が持続するとは!
CCTは、発達障害の治療、子どもの知育、学生の集中力UP、高齢者の認知機能維持など、幅広く活用されているようです[8, 9]。
私も受けたいかも!
References
- Chung A, Jou C, Grau-Perales A, Levy ERJ, Dvorak D, Hussain N, Fenton AA. Cognitive control persistently enhances hippocampal information processing. Nature. 2021 Nov 10. doi: 10.1038/s41586-021-04070-5. Epub ahead of print. PMID: 34759316.
- Dvorak D, Chung A, Park EH, Fenton AA. Dentate spikes and external control of hippocampal function. Cell Rep. 2021 Aug 3;36(5):109497. doi: 10.1016/j.celrep.2021.109497. PMID: 34348165; PMCID: PMC8369486.
- Wesierska M, Dockery C, Fenton AA. Beyond memory, navigation, and inhibition: behavioral evidence for hippocampus-dependent cognitive coordination in the rat. J Neurosci. 2005 Mar 2;25(9):2413-9. doi:10.1523/JNEUROSCI.3962-04.2005. PMID: 15745968; PMCID: PMC6726107.
- van Dijk MT, Fenton AA. On How the Dentate Gyrus Contributes to Memory Discrimination. Neuron. 2018 May 16;98(4):832-845.e5. doi: 10.1016/j.neuron.2018.04.018. Epub 2018 May 3. PMID: 29731252; PMCID: PMC6066591.
- Cimadevilla JM, Fenton AA, Bures J. New spatial cognition tests for mice: passive place avoidance on stable and active place avoidance on rotating arenas. Brain Res Bull. 2001 Mar 15;54(5):559-63. doi: 10.1016/s0361-9230(01)00448-8. PMID: 11397548.
- Talbot ZN, Sparks FT, Dvorak D, Curran BM, Alarcon JM, Fenton AA. Normal CA1 Place Fields but Discoordinated Network Discharge in a Fmr1-Null Mouse Model of Fragile X Syndrome. Neuron. 2018 Feb 7;97(3):684-697.e4. doi:10.1016/j.neuron.2017.12.043. Epub 2018 Jan 18. PMID: 29358017; PMCID: PMC6066593.
- Cimadevilla JM, Wesierska M, Fenton AA, Bures J. Inactivating one hippocampus impairs avoidance of a stable room-defined place during dissociation of arena cues from room cues by rotation of the arena. Proc Natl Acad Sci U S A. 2001 Mar 13;98(6):3531-6. doi: 10.1073/pnas.051628398. PMID: 11248112; PMCID: PMC30687.
- Vanderhasselt, MA., Demeyer, I., Van Imschoot, L. et al. Cognitive Control Training in Healthy Older Adults: A Proof of Concept Study on the Effects on Cognitive Functioning, Emotion Regulation and Affect. Cogn Ther Res 45, 959–968 (2021). doi.org/10.1007/s10608-020-10154-9.
- Edward J. Jedlicka. LearningRx Cognitive Training for Children and Adolescents Ages 5–18: Effects on Academic Skills, Behavior, and Cognition. Frontiers in Education 2, 62 (2017). doi: 10.3389/feduc.2017.00062.