私の所属する大学には、世界中からポスドクがやってくるので、
「外国人研究者」のためのセミナーやワークショップなども充実しています。
ある時、
「外国人研究者がコロナ禍で文化の壁をどう乗り越えるか」
というテーマでウェビナーがあったので、
軽い気持ちで参加してみました。
ウェビナーに参加
ウェビナーでは、
専門のカウンセラー達が、
「文化の違いによって私達が受けるストレスについて」
「ResistanceとResilienceについて」
等の説明があり、
「コロナ禍で外国人研究者のストレスがどのように増悪するか」
等に触れられていました。
そして、後半はそれぞれの外国人研究者達が、
今受けているストレスについて話しました。
ある人はCOVID19による人員削減でクビになり、
今ポストを探している最中だそうです。
「みんな大変なんだなー。」
と思っていると、私の番がきてしまいました。
「どーしよー。」
と迷いましたが、
こちらに来てストレスを感じている事はたしかなので、思いのままに話してみました。
- 日本ではオブラートな物言いが一般的だが、所属するラボのPIはよくキツイ言い方をするので、傷つくことが多い。
- コロナ禍で3人の子供達がオンライン授業となり、セットアップ等のサポートをしていたら研究の時間がほとんどない。
- けれどデータを出さないと「クビだ」と言われたりするので、プレッシャーが強い。
- オンラインミーティングとなり、じっくり話を聞いてもらう機会がないので、自分の状況を理解してもらうことが難しい。
etc...
すると、話を聞いていたカウンセラーの一人が、
「あなたの問題は、外国人研究者の域を超えているわ。個別にカウンセリングしたほうがいいと思うわ。」
と提案してくれ、
翌週、オンラインカウンセリングを受けることになりました。
オンラインカウンセリング
オンラインカウンセリングの日、
「まずあなたの状況をもっとよく知りたいから、話してくれる?」
と言われました。
私は、今までの経緯を話し始めました。
- もともとPIは性格がキツイ事で有名だったが、仕事内容は素晴らしいし、特に夫はこの研究室から出る論文の内容に感銘を受けていた。
- 自分たちは辛抱強く努力するタイプだし、よく働くから、多少の厳しい環境にも耐えられると思っていた。
- 夫には「重要な発見だ」と信じて日本から持ってきたデータがあり、最初はPIも強い興味を示していたが、後にこのラボの報告の一部を否定する結果が出てきたあたりから、「この研究は全然価値がないからこれ以上続けたらダメ」と言うようになり、結果をまとめて終わるよう迫ってきた。
- 夫は納得がいかず、何度もデータの信用性を保証する実験を重ねたが、彼への風当たりは強くなり、最後は折れてそのテーマを終わる事に同意した。
- その後、夫はうつ状態となった。
- 私の場合は、最初はうまくいっていたが、ある時、実験がうまくいかなくて「実験の途中でサンプルをロスしてしまったかもしれない。」とミーティングで話してから立場が悪くなった。
- 「あなたのデータは信用できない。」と言われ、頑張って出したデータをみてくれなくなり、その後充てがわれる予定だったテクニシャンも「あなたにはまだ早い。」と別の人に配属となった。
- ここで心が折れるのは自分の研鑽が足りないからだと思い、自分を高めるために色々な自己啓発本を読んだが、そこに書かれている内容を読めば読むほど、「PIの言動はここに書かれている事と真逆だ。」と思ってしまうようになった。
- 多くの本が、「このような環境からはすぐに逃げ出すべき」と勧めており、「この試練を乗り越えたい」という気持ちも萎むことになった。
カウンセラーからの第一声は
「あなたも薄々わかっていると思うけど、これは『文化の壁』の問題じゃなく、『人』としての労働環境の問題よね。」
でした。
「アメリカ人がダイレクトに物言う人種だからって、普通はこんな事しないし、テクニシャンというリソースを奪う行為は、本来はやってはいけないことだもの。
その本が指南するように、普通は『その環境から出る』という選択が推奨されると思うわ。
でも、あなたの立場はもっと複雑だから、単純に『その環境から出る』って事が解決策にはならないわよね。
あなたにとってのベターな選択は何か、一緒に考えましょう。」
そう言って、カウンセラーは、私の子供の事や、夫の仕事の事等を細かく質問し、その度にたくさんの選択肢を提案してきました。
その一つ一つに答え、また違う選択肢を提案される…
そのように会話を繰り返す中で、
私は自分の置かれている状況や考えが整理できていくのを感じました。
ポイントは、
「自分と自分の大切な人達一人ひとりにとっていずれもベターな選択肢は何か」という事で、
そのためには、それぞれの立場でのメリットとデメリットを整理することが重要だと思いました。
私:
- 日本に帰っても医師として仕事はできる。
- 研究者としてはイマイチなので、自分に自信を持ち、自分の力でいいポストを得るためには、ここでどれだけ学び、どれだけの業績を出せるかが重要。
- そのためには、あと2年今のラボで頑張って、いい仕事をしたいと思っている。
- もし今の状態で帰国となれば、以前のラボを頼って研究はできるかもしれないが、主には臨床医として働く事になるかもしれない。
夫:
- 以前の研究室のボスから気に入られており、今でも日本でのいいポストを提案してくれている。
- ここで得られる事が大きければいいが、そうでなければ日本の以前の研究室に戻ったほうが、自由に研究ができる。
- あと1年は様子を見るが、2年いる価値がなさそうだと判断すれば、帰国する予定。
長男(10歳):
- 学校ではアドバンスな授業が受けられていたが、日本では小学4年生で、中学受験を考えると塾で受験勉強を始める年頃である。
- 日本のオンライン塾に通い始めたが、周囲に切磋琢磨できる同級生がいないので、なかなか身が入らない。
- COVID19で学校に行けず、オンライン授業には限界がある。日本では学校が始まっているので、学業面を考えると帰国のほうがメリットが大きい。
- 特に国語が苦手になってきている。
長女(7歳):
- 学校ではアドバンスな授業が受けられていたが、COVID19で学校に行けず、オンライン授業には限界がある。日本では学校が始まっているので、学業面を考えると帰国のほうがメリットが大きい。
- 会話が日本語と英語のハイブリッドになっている。
次男(5歳):
- おばあちゃん達に会いたいと言っている。
- 日本語を忘れてきている。
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こうやって状況を整理すると、
「私以外は帰国の方がメリットが大きいな。」
と考えてしまいますが、
カウンセラーはあくまで
「家族一人一人にとってベターな選択」
を主張します。
それには私も含まれると。
- 来年家族は帰国し、私だけ後1年残って頑張る
- 旦那さん経由で私にもいいポストをお願いしてもらう
etc. 色々な選択肢が上がりましたが、
とりあえず今は、
「帰国する事を視野に1年頑張ってみる」
という目標を立ててみました。
その後、カウンセラーからは、
「いいと思うわ。
そういうふうに期限をしっかりとつければ、多少嫌な事を言われたりされたりしても『あと1年間で終わるから。』と割り切る事ができる。
そして、『期限までの時間は限られているし、こんな事に落ち込んでいる時間がもったいない。』と、目の前の事にだけ集中できるはず。」
と言われました。
本当にそんな気がします。
ここ半年間程、
余計なことを考える
↓
目の前の事に集中できない
↓
時間が過ぎていく
↓
それがさらに落ち込む要因になる
という悪循環に陥っている感がありました。
自分で期限を決め、
それ向かって目標を立て、
後は目の前の事に全力で取り組む。
…頑張ります。
Knowing yourself is the beginning of all wisdom
— Aristotle (Greek philosopher and polymath, 384-222 BC)
己を知ることで全ての賢智が始まる。
It is during our darkest moments that we must focus to see the light.
— Aristotle (Greek philosopher and polymath, 384-322 BC)
最も暗い時期にいる時こそ、私達は光を見出すために集中しなければならない。
PIの方は、本当にきつい方で有名ですからね。。。PIの旦那さんの方はまだマシじゃないかとも思うのですが、co-PIの割にはそんなに口出ししてこないのでしょうか?
私がここでお見かけしている限り、優秀な方だと思うので、是非とも今後も研究を続けてもらえたらと思いますが。。。
ありがとうございます。
co-PIの方は、だいぶ私達を買ってくれているように思います。PIにも私達の書いた論文を「素晴らしい内容だから是非みるように」と何度も勧めてくれていました。
PIも、時々は意地悪な気持ちで話していると感じる時もありましたが、そうではない時もあり、多分自分が思うほどには立場は悪くないのかもしれません。
結局は、自分に投げられた言動を、私がどう受け止めるか、という事ですね。
研究を続けるためのヒントみたいなものは、たくさん転がっているように思いますし、それを余計な感情で曇らせてキャッチし損ねていたらもったいないですね。アンテナの感度を落とさぬよう、毎日を大切に過ごしていきたいと思います。