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相手方のご両親は、教頭先生、担任の先生とともに、部屋に入ってきました。

2人とも疲弊した様子で、うつむきながら、力なく挨拶しました。

 

私たちは、対面に相手方のご両親、片側に校長先生と担任の先生、反対側に教頭先生、という構図で、席につきました。

事故の経緯とその後の経過

始めに、担任の先生から事故の経緯について説明がありました。

  • 体育の時間、心と体をほぐすための授業を行っていたこと
  • 息子たちは3人一組のチームとなり、順番に風船を上に上げながら、地面に落とさないよう他のチームと競っていたこと
  • A君が息子に風船を上げ、息子が上を見上げて風船を上げようとしたところで、B君が自分の番だと思い、突っ込んできたこと
  • 息子の頬骨付近にB君の下顎部があたり、息子はその場でうずくまったこと

 

その後、夫から、大学病院へ救急搬送されるまでの経緯と、手術や入院中の様子、退院後の様子、これから予定されている精密検査等について説明しました。

私たちが最も気にしているのは、脳MRIの所見であり、これが外傷によるものだとすると、事故の際、脳にはかなりの強い衝撃が加わったと推測されます。

眼窩底骨折の修復後、意識障害、嘔吐、眼球運動障害等の症状は改善しましたが、今後、高次脳機能障害などが顕在化する心配もしていることを伝えました。

 

相手方のご両親は、とても辛そうに聞いていました。

「先日、授業参観で退院後の息子さんを拝見して、目が腫れていて大変痛々しい姿で……本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。」

「朝、いつも通り元気に見送って、こんな連絡を受けるなんて想像されていなかったと思います。本当に申し訳ありませんでした。」

責任の所在は学校の安全管理にある

夫は、事前に2人で確認していたことを伝えました。

「今回の事故に関して、責任の所在は『学校の安全管理』にあると思います。相手方のお子さんやご両親に対しては、責任があるとは思っていません。もしかしたら、立場が逆だった可能性もありますし。」

先生方は頷き、ご両親ははっと顔を上げました。

 

夫の言葉を受けて、教頭先生が、事故後に学校や市の教育委員会で話し合った内容の説明を始めました。

  • 今回、マニュアルに沿って、安全を最大限気がけて授業を行っていたが、このような事故が起こってしまったため、もう一度マニュアルを見直し、改定する必要性について話し合ったこと
  • 本件は市の教育委員会にも報告し、地域全体の学校へ周知し、各学校でもう一度安全管理対策について考え直していること
  • 現在、毎朝安全管理について各教員に周知し、子供たちの学校生活において危険がないか気がけることを徹底していること

大切なのは、システム作り

「以上、現時点での対策について説明させていただきましたが、何かご質問やご意見はありますか?」

教頭先生の言葉を受け、私は自分の考えを話しました。

 

「先日、担任の先生から、『どうすれば事故を防げたのか』について、校内で話し合った内容を教えていただきました。

その際、

  • 3人ではなく、2人だったら衝突は避けられたのではないか
  • 3人だった場合でも、「◯◯さん」と、次に風船を触る人の名前をいいながら風船をあげる、というルールにしたらよかったのではないか

などの意見が出たと伺いました。

 

私は、これを聞いて、『確かに、そのようにしていたら事故は起こらなかったかもしれない。』と思いました。

 

私自身、生まれてきてからこれまで、危険性を軽んじて行動し、一歩間違えば命を落としていたかもしれない、とヒヤリとする場面に遭遇したこともあります。

特に子どもの頃は、常に周囲の危険を意識して行動するのは中々難しく、気をつけるように指導しても常にそのとおりに行動できるものではありません。

また、先生方がどんなに意識を高くもつ努力をしても、数十人の子ども達の動きを常に監視しておくことはできません。

 

大切なのは、危険なことが起こりにくい状態を作っておく、『システム作り』だと思います。」

ちょっとした工夫で危険の遭遇頻度を下げることができる

私の話を受けて、校長先生が話し始めました。

「私は今年から赴任してきたばかりですが、だからこそ、見えるものがあります。

例えば、現在本校では、下校時刻から放課後にかけて、門が解錠されていますが、危険人物が入り込むのを防ぎようがありません。子どもの下校後は、すぐに門を施錠することを伝えようと思っていました。

また、この学校は町中にあり、かなり交通量の多い場所を登下校することになります。長年、地域の方々に横断歩道で旗持ちをしていただいておりますが、その方々も高齢化が進んでおり、今後若い人たちにも入ってもらう必要があると考えています。

これまでの学校の伝統を尊重しつつ、安全管理の観点から重要なことは、どんどん改革していきたいと思っています。」

 

 

私は、校長先生の言葉を頼もしく感じ、「よろしくお願いします。」と言って頭を下げました。

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