syt1の構造変化

シナプトタグミン1 (synaptotagmin-1, syt1) は、カルシウム (Ca2+)センサーとして働き、神経活動によるCa2+の細胞内流入を感知して神経伝達物質を放出する。

このsyt1のヘテロ変異では、様々な程度の神経発達障害が起こる事が知られており、syt1-associated neurodevelopmental disorderと名付けられている (Baker et al., Brain, 2018)。 こ

の患者は、幼少期の筋緊張低下、知的障害、運動障害、てんかん発作を伴わない脳波異常等の症状が特徴である。

しかしながら、この疾患の詳細なメカニズムはよくわかっていなかった。

 

今回、アメリカ・ウィスコンシン医学公衆衛生大学のChapmanらの研究グループは、syt1変異のドミナントネガティブ効果によってこの疾患の症状が引き起こされる事を明らかにした。  

シナプトタグミン1関連神経発達障害のメカニズムを解明

彼らは、syt1の3つの変異 (D304G, D366E, I368T) について解析した。

まずこれらの変異のsyt1のX線結晶構造解析を行うと、C2BのCa2+結合/膜貫通ループ領域に構造変化を生じていた。

マウス神経細胞でこれらの変異の影響を確認すると、変異Syt1は神経細胞内での局在が変化しており、神経活動によるシナプスの神経伝達物質の放出が障害されていた。

syt1はSNARE複合体が細胞膜と融合するトリガーとして働く事が知られているが、これは負に荷電しているphosphatidylinositol(4,5)-bisphosphate (PIP2) の存在が必要となる。

syt1変異では、PIP2を含む脂質二重膜との、Ca2+依存的な結合が阻害されていた。

syt1変異ではCa2+感受性が落ちている事が主な原因と分かったので、彼らは、細胞内へのCa2+流入量を上げる事が症状緩和につながるのではないかと考えた。

彼らは多発性硬化症の治療約として承認されているK+チャネル拮抗薬を処置し、変異syt1に効果があるか確認したところ、

変異syt1の神経細胞で、K+チャネル拮抗薬の容量依存的にグルタミン酸の放出量があがり、短期可塑性が改善した。

 

これらの結果は、syt1関連神経発達障害に対する、治療の可能性が期待できるものとなった。

References

  1. Bradberry MM, Courtney NA, Dominguez MJ, et al. Molecular Basis for Synaptotagmin-1-Associated Neurodevelopmental Disorder [published online ahead of print, 2020 Apr 21]. Neuron. 2020;S0896-6273(20)30272-5. doi: 10.1016/j.neuron.2020.04.003
  2. Kate Baker, Sarah L Gordon, Holly Melland, Fabian Bumbak, Daniel J Scott, Tess J Jiang, David Owen, Bradley J Turner, Stewart G Boyd, Mari Rossi, Mohammed Al-Raqad, Orly Elpeleg, Dawn Peck, Grazia M S Mancini, Martina Wilke, Marcella Zollino, Giuseppe Marangi, Heike Weigand, Ingo Borggraefe, Tobias Haack, Zornitza Stark, Simon Sadedin, Broad Center for Mendelian Genomics, Tiong Yang Tan, Yunyun Jiang, Richard A Gibbs, Sara Ellingwood, Michelle Amaral, Whitley Kelley, Manju A Kurian, Michael A Cousin, F Lucy Raymond, SYT1-associated neurodevelopmental disorder: a case series, Brain, Volume 141, Issue 9, September 2018, Pages 2576–2591, https://doi.org/10.1093/brain/awy209
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