Cryo-EMで前方側頭葉変性症(FLTD), アルツハイマー病(AD), 慢性外傷性脳症(CTE), 大脳皮質基底核変性症(CBD)のタウを次々と解析している、イギリス・MRC Laboratory of Molecular BiologyのMichel Goedertらのグループから、α-シヌクレイン(α-Syn)のcryo-EM解析結果が報告されました。
Cryo-electron microscopy reveals the structures of α-synuclein filaments from the brains of individuals with multiple system atrophy.
MSA由来α-SynのCryo-EM
著者らは、MSA(1人はMSA-P、4人はMSA-C)と診断された5人の剖検脳の被殻(うち4人は前頭葉皮質も)から、サルコシル不溶性でS129がリン酸化しているα-Synを抽出した。
電顕で確認すると、MSAのフィラメントは捻じれた形をしており、トランケーションされたα-Synもあったが、大部分は全長α-Synだった。
SH-SY5Y細胞で確認すると、それぞれの症例から抽出されたα-Synのシード形成能には大きな差がみられた。
これらのα-Synをcryo-EMで解析したところ、α-Synは大きく2つのタイプ(Type I & Type II)に分類でき、検体間や部位により、TypeIとTypeIIの含有率が異なっていた。
Type IもType IIも大小2つのプロトフィラメントからなり、左右非対称に結合していた。
2つのプロトフィラメントは3層のL型のモチーフを有しており、対側のプロトフィラメントとずれるように結合していた。
インターフェース部分には空洞があり、タンパクに接していない何かの高電子密度の物質が確認された(この物質が何かは不明。)
MSAのα-Syn凝集体の構造が他のシヌクレイノパチーと同じかどうか、彼らはレヴィ小体型認知症(DLB)の患者脳からも同様にα-Synを抽出し、cryo-EMで解析した。
DLB由来のα-Synフィブリルは、MSA由来α-Synフィブリルの持つ捻じれ構造を欠いており、MSAとDLBのα-Synの高次構造は違う事が明らかとなった。
さらに、合成α-Synフィブリルも、共通部分はあるものの、MSA由来α-Synフィブリルと異なる構造をしていた。
My View
2月にバイオアーカイブでプレプリント版が公開されていましたが、今回、Nature誌に掲載された論文をみると、2月投稿で5月アクセプト……早い……
今までの実績があり、疾患が違うだけだから、査読もスムーズだったのかなー。
前回のCBD-タウに引き続き、長谷川先生と村山先生が共著者に入っているので、解析したMSA/DLB α-Synには日本人のMSA患者さんの検体が含まれていそうです。
MSAは病態の進行が早く、PDやDLBに比べると若くて働き盛りの方が多いので、MSAの患者さんを担当していた時には辛い気持ちでいました。
細胞や動物実験では、MSA-α-SynはPDやDLB由来のα-Synに比べて何十倍もシード形成能、伝播能が高い事が報告されているので、これが病態が早く進行する理由になると思います。
そして、既報告からも今回の結果からも、フィブリルの構造の違いが、異なった伝播パターンや症状を生んでいるのはほぼ確実じゃないかと感じます。
ただ、MSAはほとんどが孤発性なので、何がきっかけでMSAを発症するのかはまだよくわかりません。
一昨年、α-Synがオリゴデンドロサイトで凝集体をつくるとシード形成能/伝播能の高い凝集体になると報告されていました(Peng et al., Nature, 2018)が、なぜ特定の人がオリゴに毒性の高いα-Syn凝集体を形成し、MSAを発症するのでしょうか?
まだまだ謎が深い疾患のように思います。
References
- Schweighauser M, Shi Y, Tarutani A, et al. Structures of α-synuclein filaments from multiple system atrophy [published online ahead of print, 2020 May 27]. Nature. 2020;10.1038/s41586-020-2317-6. doi: 10.1038/s41586-020-2317-6
- Fitzpatrick, A., Falcon, B., He, S. et al. Cryo-EM structures of tau filaments from Alzheimer’s disease. Nature 547, 185–190 (2017). https://doi-org.proxy.library.upenn.edu/10.1038/nature23002
- Falcon B, Zhang W, Murzin AG, et al. Structures of filaments from Pick's disease reveal a novel tau protein fold. Nature. 2018;561(7721):137‐140. doi: 10.1038/s41586-018-0454-y
- Falcon B, Zivanov J, Zhang W, et al. Novel tau filament fold in chronic traumatic encephalopathy encloses hydrophobic molecules. Nature. 2019;568(7752):420‐423. doi: 10.1038/s41586-019-1026-5
- Zhang W, Tarutani A, Newell KL, et al. Novel tau filament fold in corticobasal degeneration. Nature. 2020;580(7802):283‐287. doi: 10.1038/s41586-020-2043-0
- Peng C, Gathagan RJ, Covell DJ, et al. Cellular milieu imparts distinct pathological α-synuclein strains in α-synucleinopathies. Nature. 2018;557(7706):558‐563. doi: 10.1038/s41586-018-0104-4
留学予定の者です.
留学前に留学生活についていろいろ検索しているとこのブログにたどり着きました.
このMSAの書き込みを見ていると私がお世話になった研究所のボスの名前があり,つい書き込みをしてしまいました.
研究所を離れて2年がたちますが病理は面白いですよね.
私は神経生理をテーマに留学することになりそうですが,不安なことだらけです.
参考にブログを読ませていただきます.
ブログを読んでいただきありがとうございます。留学直後から日記のように書き綴っていますが、初めの頃は特に想定外の出来事が多く、しんどい思いをすることも多かったです。あまりお役に立てる情報は少ないかもしれませんが、何かの参考になれば幸いです。
お互い頑張りましょう!