脳卒中や筋萎縮性側索硬化症 (Amyotrophic Lateral Sclerosis, ALS) などの疾患で、手足も動かせず、言葉も発せられない患者さん達は、自分の考えていることを周りに伝えることができません。
私が患者さんの立場だったら、
「今思っていることをテレパシーで伝えられたら」
と歯痒い気持ちでいっぱいになると思います。
今回、アメリカ・カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSF)の Dr. Chang らの研究グループは、
脳内に電極を埋め込み、思った事を言葉にするデバイスを開発し、脳幹梗塞で喋れなくなった患者さんの言葉をアウトプットする事に成功しました。
テレパシーを可視化
方法
被験者は36歳男性。
16年前に脳幹梗塞で言語障害となり、発声はできますが言葉としては聞き取れません。
著者らは、この患者さんの言語に関係する脳部位
- 左中心前回
- 左中心後回
- 後部中前頭回
- 後部下前頭回
を覆うように脳軟膜上に電極シート(電極は128個)を配置し、同部位の神経活動を記録できるようにしました。
患者さんには、予め用意された50個のワードから選んで言葉や文章を考えてもらい、
その時の神経活動のデータを2019年から記録し、機械学習させました。
結果
実際にビデオを見て感動したのですが、
例えば "How are you today?" という質問がモニターに現れると、しばらくして下の方に "I am very good." という、患者さんが考えた答えが映し出されます。
その他にも "Would you like some water?" という質問に対して "No I am not thirsty." と、簡単な質問に対してちゃんとした答えが映し出され、会話が成立していました。
(ビデオを記事にリンク付できないのが残念ですが。)
1分間似中央値で 15.2 個のワードを認識し、
エラーの割合は中央地で 25.6 %。
81週間の試験期間中、安定して47.1%の精度で神経活動のシグナルを言語に変換できたそうです。
Technology to restore the ability to communicate in paralyzed persons who cannot speak has the potential to improve autonomy and quality of life. An approach that decodes words and sentences directly from the cerebral cortical activity of such patients may represent an advancement over existing methods for assisted communication.
My View
このようなデバイスは、脳卒中や ALS など、考えている言葉を自分の口から発せられない患者さん達にとっての希望の光になると思います。
普通の速さで会話するにはまだまだ改良が必要そうですが、
もっと多くの電極を持つシートを配置させたり、神経活動のデータをどんどん蓄積して機械学習させたりすることで、
より速く、精度の高いテレパシーデバイスが実現可能なんじゃないかと思いました。
期待しています。
Reference
- Moses DA, Metzger SL, Liu JR, Anumanchipalli GK, Makin JG, Sun PF, Chartier J, Dougherty ME, Liu PM, Abrams GM, Tu-Chan A, Ganguly K, Chang EF. Neuroprosthesis for Decoding Speech in a Paralyzed Person with Anarthria. N Engl J Med. 2021 Jul 15;385(3):217-227. doi: 10.1056/NEJMoa2027540. PMID: 34260835.