最近、同じラボで別グループのポスドクと、同じ部屋で実験する機会があり、時々話をしていました。
そして、先日、彼女から突然聞かれました。
「このラボで何年くらい働いているの?」
突然の質問に驚きましたが、
「えっと、もうすぐ3年かな。」
と答えました。
すると彼女は、
「すごいね。私、このラボで何年も働いているポスドクを尊敬するわ。
私はここにきてまだ8ヶ月だけど、あと2週間でラボを出るわ。」
とのこと。
「え!?なんで!?」
と驚いて聞き返すと、
「ただ、ラボの雰囲気が合わないだけ。」
とのこと。
「みんな PI の顔色を伺って、彼女の指示通りに動いていて、気持ちが悪いわ。
カンファで彼女がポスドクに怒鳴りつけるのを聞くたびに、嫌な気分になる。
本来、サイエンスはもっと自由な発想でとりくむべきだし、のびのびとした気持ちで研究すべきはずよ。
このラボで何年も働いている人がいると聞いた時には、私の考えの方がおかしいかと思ったけど、
今は自信をもっていえるわ。
おかしいのはこのラボの方で、こーゆーふーに考える私は正常だわ。」
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確かに、彼女の言うことは正論のように聞こえますし、私も彼女のほとんどの意見に賛成です。
実際、私もここに来てからサイエンスを楽しむ気持ちはなくなり、
「どーゆーふうに言えば PI が変な事を言って怒鳴ってこないか」
という考えで発表に望むようになりました。
何度かラボを変わることも検討しましたが、
同僚のポスドク達から、
「みんな最初は大変なんだ。
2年我慢するんだ。
そしたら、自分がどう行動したらいいかわかってきて、ここにいるのが辛くなくなるよ。」
と言われ、
何かあっても「2年の辛抱」と思って耐えてきました。
そんな私にとって、彼女の言葉は強烈でした。
私が意外だったのは、彼女は PI から気に入られていて、あまり怒鳴られたりしておらず、何か言われてもサラッと返せていたので、
比較的プレッシャーを受けずに研究できているように思えていたからでした。
けれども、彼女は「すぐに出ていく」という決断をしました。
私は彼女と違って、アメリカの他のラボを知らないので、
「このラボが他と比べてどうかという事が正確に評価しにくかった」
というのも一因かもしれないですし、
「ラボを移るとその後の計画も変わってきて、家族を巻き込む事になる」
というのが、私の中で大きかったですが、
どちらにしても、彼女のような決断力がなかったということに尽きると思います。
しばらく悶々としましたが、今からラボを移るというのは現実的ではなし、
「まだここで学びきれていない事がたくさんある」
と感じるので、
予定どおり後1年で自分と夫の仕事をまとめ、
「帰国後に備えて、今出来ること、今しなければならないこと」
に注力しようと思います。
サイエンスを楽しむ空気、自由が十分にあるのが理想ですが、現実的にはリソースが限られるのでどこか妥協しないといけないでしょう。米国では様々なラボがあって、その多様性が強い競争力の源であるかと思います。すばらしい業績を残しているビッグラボに在籍すること自体が希少な体験と思います。ぜひ、ポジティブに捉えてご自身の今後の研究のため、日本の神経科学の発展のためにその経験を活かしていただけたらと思います!
ありがとうございます。
ストレス環境下ではどうしても視野が狭くなり、自分が如何に恵まれているかを忘れがちになりますね。
先生方からのコメントは、そんな私に別の視点から現状を俯瞰する機会を与え、すぐに暗闇に入り込みそうになる自分を引き戻してくれており、ブログを始めて良かったと思いました。
大変感謝しております。今後とも宜しくお願い致します。