私の所属する大学の必須トレーニングの一つに、Responsible Conduct of Research (RCR) についてのトレーニングがあります。
CITIという機関のRCRプログラムを受け、合格すると証書が与えられます。
CITI Program provides training courses for colleges and universities, healthcare institutions, technology and research organizations, and governmental agencies.
今回のテーマは、「Mentoring(メンタリング)」です。
メンタリングとは
「メンタリング」と聞いて、「なにそれ、メンタリスト関連?」と思い浮かべた人がいたら……それは違います。
メンタリングとは、人材育成・指導法の事で、メンター(mentor)と呼ばれる「指導者」が、メンティー(mentee)もしくはトレイニー(trainee)と呼ばれる「指導される者」と信頼関係を築きながら、指導していくというもの。
アメリカでは当たり前のようにあるこの「メンタリング制度」ですが、日本ではまだ広く行き渡っているとはいえないようです。
事実、私が大学院生・研究員としてお世話になった元ラボでは、メンタリング制度と言えるものはなく、
「上司 = メンターになってくれる可能性のある人」
という印象でした。
そして、メンターになってくれそうな上司にあたるかどうかは運次第……といった感じ。
大学の先生達は大抵、雑務に追われて超多忙です。
しかも私の所属していたラボは臨床系のラボで、そこのスタッフは皆、大学病院や外病院での診療もこなさなければならない人達でした。
そんな過密スケジュールを縫って、自分の研究スキルや研究哲学、キャリア形成などを親身になって指導してくれる先生に出会える確率は……まあ、わかりますよね。
今私が所属しているラボでは、大学院生ほどしっかりした制度ではありませんが、ポスドクにも「メンター」「トレイニー」の仕組みがあり、大学に年次報告をする必要もあります。
メンタリングの重要性
メンタリングは、論文や教科書、一般書では学べない重要な事柄を、人(メンター)と人(トレイニー)とのコミュニケーションの中で伝えていく、という制度になります。
- メンタリングは人とのつながりを育みます。逆に不適切なメンタリングは、人同士の信頼関係構築を困難にします。
- メンタリングは未来の研究に重要な役割を持ちます。適切なメンタリングを受けなかったトレイニーが増えれば、将来の研究の質の低下につながります。
メンタリングの恩恵
トレイニー
適切なメンタリングを受けた研究者達は、
社会への適合能力が養われ、
より生産的になり、
より仕事に対する生きがいを感じるようになります (Gardiner et al., 2007)。
さらに、研究者として重要な「倫理観」を獲得し、社会的責任についても理解できるようになります。
また、キャリア形成などのアドバイスを受けることで、組織文化についての理解を深めることもでき、プロとして成功する方法などを身につける事ができます。
メンター
メンターは、トレイニーに指導する過程で、
彼らの知識や経験を共有することで、研究に対する情熱を再取得するチャンスに恵まれます。
また、メンターのネットワーキングの範囲を広げ、研究分野への貢献度も高まります。
有能なトレイニーとの対話は、
- 新たな研究分野の開拓
- フレンドシップ
- 力強いリサーチプログラム
- 後世の研究者との繋がり
などの恩恵を受けることも多いです。
メンターの役割
先生として
メンターは、トレイニーが有能な研究者となるための知識や技術を伝授します。
アドバイザーとして
メンターは、トレイニーの研究課題に対する適切なアドバイスをします。
そのプロジェクトの理論的健全性、実用性、市場性などのフィードバックを行います。
指導者として
メンターは、トレイニーの仕事を指導します。
トレイニーをポスドクやアシスタントとして雇ったり、組織内で部下として一緒に仕事をすることもあります。
キャリア形成の監督として
メンターは、トレイニーのキャリア形成をサポートします。
メンターの働きにより、トレイニーは他の研究者とコラボレーションしたり、論文を発表したりします。
アカデミック・プロフェッショナルな研究文化のガイド役として
メンターは、トレイニーが研究社会に適合できるよう、指導します。
社会適合化には、
- 研究倫理感
- アカデミックな組織や団体と繋がる、政治的・経済的・社会的要素への理解
などが含まれます。
また、
- 教えるスキルの向上
- コミュニケーション
- チームで働くこと
- リーダーシップ
などを指導します。
トレイニーは、同僚や社会で信頼を得ることの重要性を学ぶ必要があります。
擁護者として
メンターは、トレイニーの擁護者となる必要があります。
トレイニーが、疑問・懸念・困難に遭遇したとき、メンターは一歩下がり、アカデミック/プロフェッショナル・コミュニティでトレイニーをサポートしなければなりません。
またメンターは、時にトレイニーの「スポンサー」でいる必要があります。
友達として
メンターはトレイニーの「良き友達」とならなければなりません。
メンターの責任
正直で公平
メンターは、話しかけやすく、献身的で、知識人でなければなりません。
がそれと同時に、メンターは「自分の知識に限界がある」ことをトレイニーに正直に伝えなければなりません。
明確化
メンターは、自分たちがどこまで引き受けられるのかを明確化しなければなりません。
具体的には、
- どれくらいの頻度で都合がつくか
- タイムライン
- 締め切り
- オーサーシップ
- データのオーナーシップ
などです。
役割間での対立を避ける
メンターは、自分の本業とのバランスを取る必要があります。
例えば、トレイニーに過度な時間と労力を割いて自分のための研究を強制するようなことがあってはなりません。
このバランスが崩れると、メンターがトレイニーを搾取する、という構図へと繋がります。
良いメンターの条件
良いメンターになり得る人とは
- その研究に精通しており、トレイニーが直面するであろう困難についても経験がある
- 他人がその分野で成功する手助けをしたいという気持ちがある
- やる気がある
- 性格が良い
- 他人のために喜んで時間を使うことができる
- 他者から尊敬されている
トレイニーの役割と責任
いくらメンターが立派でも、受け取る側の用意ができていなければ何もなりません。
トレイニーは、
- 目標を明らかにする
- 自分にあったメンターを積極的に探しに行く
- 主体的なトレイニーになる
事が求められます。
メンタリングの失敗例
メンタリングが失敗するのは、一般的に下記のような場合が多いそうです。
- メンターとトレイニー間で、それぞれの役割・目標・期待などにずれがある
- メンターが、メンターとしての複数の役割のうち、どれか1つを疎かにする
- メンターとトレイニー間での性格の不一致
- メンターが、公私混同する
- トレイニーがメンタリング制度を勘違いする(e.g. 共著者に入れてもられるかも、などの期待)
- メンターがパワーバランスを崩し、パワハラ・アカハラ等を行う
私の感想
私のメンターは、今所属するラボのPIとCo-PIになります。
私の研究内容へのアドバイスやキャリア形成支援など、前ラボとは比べ物にならないくらい積極的にしていただいており、彼らもそれが自分たちの使命だと思っているように感じます。
ただ、私自身の気持ちが乗り切れておらず、メンタリングが成功しているとは言い切れないかなーと思います。
理不尽な理由で人を罵倒したり、自分の言動を忘れてすぐに方針を変えたりといった、彼らの言動があまり尊敬できず、
私の方が「この人達についていきたい」という気持ちにイマイチなりきれないという感じです。
そのあたりを気にせず、彼らから研究哲学やキャリア形成などの指導をもっと積極的に受けようという姿勢になれば、メンタリングが私をぐっと押し上げてくれるように思うのですが……
現時点では私自身がトレイニーとして見込みなし、と言えそうです。
ちょっと残念ですが、気持ちを乗せるための方法も色々あると思うので、最後まで模索していきたいと思います。
- Research Misconduct(研究不正)
- Data Management(データマネジメント)
- Authorship(オーサーシップ)
- Peer Review(査読)
- Mentoring(メンタリング)
- Conflicts of Interest(COI)
- Collaborative Research(共同研究)
- Research Involving Human Subjects(ヒトの研究)
- Using Animal Subjects in Research(動物実験)