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ある日、夕食の準備中に次男(6歳)が話しかけてきました。

「僕、今度 Ian の誕生日会に呼ばれるかもしれないんだ。」

 

話を聞くと、彼のクラスメイトの Ian の誕生日会が終末に予定されているらしく、Ian 本人から誕生日会に来て欲しいと誘われたとのこと。

けれども、誕生日会の招待状は来ていません。

普通は1ヶ月前くらいにはカードか evite で招待状が届くので、

「子供同士で口約束したけど、本当は次男は誕生日会の招待リストには入っていないんだろうな。」

と思っていました。

 

ところがその数日後に、学校の先生からメールが届きました。

「Ian のお母さんの Jean が、あなた達を誕生日会に招待したいんだって。連絡先を伝えるから、よかったら彼女に連絡をとってもらえる?」

私は

「あれ?本当に招待されちゃった。」

と思いながら、教えられたアドレスにメールしました。

Jean からは、

「Ian から絶対次男くんを招待してって頼まれたの。short notice で申し訳ないんだけど、都合が合えば是非きてもらえないかしら?

明後日の夕方6時くらいからうちの裏庭で予定しているんだけど、あなた達の他に3家族を招待していて、子供たちは野外ムービーを見ながら、大人たちはその後ろで焚き火を囲みながら、お酒とか飲んで団欒しようと思っているの。」

ということでした。

どうやら、日頃から親しくしている家族だけを誘っていて、次男は Ian の頼みで急遽呼ばれる事になったようです。

誕生日会の2日前なので、かなり異例だと思います。

 

日程は空いていましたが、私はちょっと躊躇しました。

「大人たちは焚き火を囲んで団欒って……私、みんなの会話に入っていけるかな?」

 

普段いく誕生日パーティーは大人数でわやわやしているので、

私は、子ども達が友達と遊んでいるのを隅の方で見ながら、一人でドリンクを飲んでいたり、ちょっとタイミングが合えば近くの人と話をする程度で、大人同士でガッツリ話すという事はあまりしていませんでした。

そんな少人数での団欒が設定されている誕生日会で、みんなの英語が理解できるかとか、どんな話題を話せばいいのかなど、ちょっと心配になりました。

でもせっかく招待されたし、次男は行きたがっているし、思い切って二人で行ってみることにしました。

 



 

Ian の家は、うちのアパートから3ブロックほどのところにありました。

裏庭に案内されると、そこにはスクリーンとプロジェクター、子ども達用の椅子が設置されており、

その隣にはピザや野菜スティック、子ども用のジュースなどの他、大人用にビールやワインも用意されていました。

私達以外は家族全員で参加しており、やはりみんな顔なじみで親しそうに話しています。

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驚いた事に、大人たちは全員私の名前を知っていて、

「子ども達から次男くんの話をよく聞いているよ。今日は一緒に参加できて嬉しい。」

と、みんな次々に声を掛けてくれました。

 

子ども達はみんなキャーキャー言いながら走り回って戯れていましたが、

「Tom & Jerry の映画が始まるよ」

という合図で各々椅子に座りました。

 

大人たちはその後ろに設置された焚き火の周りのロッキングチェアの腰掛け、ワインやビールを片手に楽しそうに話しています。

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私も久しぶりのワインを口に含みながらみんなの話を聞いていました。

 

「うーん、やっぱり焚き火の向こう側の人たちの会話はわからないわ……。」

2,3個となりの椅子までは声が届くので普通に話ができましたが、

焚き火の向こう側の人たちの話はちょっと遠くて聞き取りづらく、

なんとなく雰囲気を掴んだり、時折はっきり聞こえてくる単語を拾ってイメージを作ったりしていました。

 

 

「……で、君はどう思う?」

焚き火の向こう側から話しかけられ、私は一瞬ドキッとしました。

(やば……何について意見を聞かれたのか、イマイチよくわからない……)

 

トンチンカンな返事をしても変に思われるだけなので、私は正直に話しました。

「ごめん、実は私、今みんな話している内容をあんまり理解できてないんだ。

聞こえる単語をピックアップしてつなげて『今こんな話をしているのかな』って想像して、めっちゃ楽しんではいるんだけど。」

 

すると、焚き火の向こう側の女性が言いました。

「えー、そうだったの!?ごめんなさい。私達、つい早口で話してしまって。」

 

私は、

(あー、やっぱりそういう反応になるよね。私が聞こえないのが悪いのに、申し訳ないな……)

と思いながら、

「いやいや、これは私が英語ができないせいだから、気にしないで。みんなが話しているのを聞いているだけでも本当に楽しいんだよ。」

と答えました。

実際そのとおりで、話せたらいいなーとは思いますが、話せなくてもそんなに気にならず、ワインを飲みながらみんなの会話を聞いているだけで楽しかったのです。

 

 

ところがその直後から、自動翻訳機を通したみたいに、急にみんなの会話が聞こえるようになりました。

特に先程

「早口でしゃべってしまってごめんなさい。」

と言ってくれた女性は、私が聞き取りやすいように明らかにゆっくり大きな声でみんなと話しているのがわかりました。

他の人達も、私に話しかけていない時でも、ワンテンポ遅めに話しているように感じました。

 



 

子ども達の映画が終わり、みんなで片付けを始めた頃には、あたりは暗く、星がいくつか煌めいていました。

みんなは口々に

「今日はいい日だった。君たちと知り合いに慣れて嬉しい。

もっと話したかったけど、また今度会って色々話そう。今日は来てくれてありがとう。」

と声をかけてくれました。

 

私は先程の女性に、

「私のためにゆっくり話してくれていたでしょう?どうもありがとう。

おかげで、あの後からみんなの話がわかるようになったよ。あなたって本当に親切ね。」

と声をかけました。

 

すると彼女も、

「こちらこそありがとう。Alisha(彼女の娘さん)は、いつも次男くんの事を話しているのよ。

近所に住んでいると知って本当に嬉しいわ。また一緒に遊んでね。」

と答えてくれました。

 

 

次男がやってきて、みんなにさよならを言って誕生日会場を後にしました。

「楽しかったね。」

「うん、楽しかったね。」

私は少しほろ酔いで、次男と握った手をぶんぶん振りながら、二人でゆっくり歩いて帰りました。

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