lab

先日、PI と Co-PI と私で話す機会があり、「この機会に!」と思って、

ここまでラボを大きくできた秘訣

について、二人に聞いてみました。

ちょっとごちゃごちゃしますが、前半は Co-PI と2人で話した内容で、途中から PI も参加してきたので、後半は PI の話となります。

ラボのバックグラウンド

このラボのバックグラウンドを少し紹介すると、

PI は PhD、Co-PI は MD-PhD で、Co-PI がブレインバンクを作りました。

 

ブレインバンクには、病理用の固定脳の他、髄液、血液、DNA、凍結脳も保管されています。

症例は、神経変性疾患に限っており、臨床所見や検査結果などは、上記のデータとともに同じデータベースから閲覧できるようになっています。

アルツハイマー病はアルツハイマー病センター、パーキンソン病はパーキンソン病センター、前頭側頭葉変性症は前頭側頭葉変性症センター、のように、

各疾患群毎にセンターを作り、そこに専門の脳神経内科医が常駐して、診察を受けた患者さん達はデータベースに登録されます。

患者さんが亡くなり、剖検を同意されると、剖検脳はこのラボが管理するブレインバンクに送られる、というシステムです。

 

そのブレインバンクのサンプルを使って、Co-PI は病理学的解析、PI は生化学的解析を行っています。

 

そして、このラボをコアラボとして、Co-PI は大学内に巨大な組織を作っており、

臨床部門、病理解析部門、画像解析部門、統計解析部門、遺伝子解析部門、バイオマーカー部門、創薬開発部門……

と、十数個のラボを繋げて、それぞれの得意分野を共有させて研究を行っている、という感じです。

各ラボのトップには、かつてこのコアラボで大学院生やポスドクとしてトレーニングを積んできた人達が多く、

それ以外は、他の施設からヘッドハンティングしたり、もともと大学にラボを持っていた人達を誘ったりしてきたようです。

 

全てのラボのトップと話をしたわけではありませんが、

ミーティングや個人の研究で相談する機会に話した限りでは、

どの人達も「とても頭がキレる」という印象で、「すごく優秀な人達なんだろうな」と感じる人達ばかりです。

 

Co-PI がこの巨大な組織のトップを勤めており、その組織内のラボの一つに PI のラボ(コアラボ)がある、という構図になっています。

組織的なことは Co-PI が取り仕切り、PI は研究に集中する、というスタンスが大まかなイメージです。

 

以前話を伺ったときには、二人がこのラボを立ち上げたときは、PI と Co-PI を含めてメンバーが5人、というとても小さなラボだったそうです。

それをここ数十年の間に、どうやってここまで巨大な組織に創り上げたのか、私はその秘訣を知りたいと思っていました。

以下、私が質問した内容とそれに対する彼らの答えについて、忘れないうちに書き留めておきます。

Q1. 組織を大きくする上で、最も大切な事は?

質問内容
Co-PIは、このラボをコアラボとして、いくつもの周辺ラボを持つすごく大きな組織を創り上げたけれども、こんなに多くの人達が集まってきた秘訣はなんですか?

回答者:Co-PI

組織には、優秀な人達にどれだけ多く仲間になってもらえるかにかかっている。

そのために最も重要な事は下記3点。

  1. お金
  2. ビジョン
  3. リーダーシップ

お金

日本ではある程度大学が給料を支払ってくれるから、自分たちほどは気にしないかもしれないけど、

ここでは、部下全ての給料を自分たちが獲得した研究資金から捻出しなければならない。

彼らも彼らの生活があるから、優秀な人たちに集まってもらうためには相当まとまったお金が必要。

例えば、創薬開発部門のトップに就いてもらっている K(彼は、うちのラボのミーティングにも全て参加し、いつも鋭いコメントでミーティングを活性化しています)。

彼はもともと製薬会社に勤めていた。

自分たちはその製薬会社と共同研究を行っていたが、彼がすごく優秀だとわかっていたし、「アルツハイマー病を治す」という自分たちの最終目標を達成するためには彼が必要不可欠だと思っていた。

彼は最初こっちに来たがらなかった。

そりゃ、製薬会社の方が給料がうんといいし、簡単には潰れないしね。

大学のラボというのは、グラントがとれなくなったら研究を継続することはできないから。

だから、彼には通常の研究員に支払う給料よりもずっと多くの給料を支払う事を約束してきてもらったんだ。

 

ラボを大きくすると場所代もかかる。

僕たちは今もこのビルディングの3階と6階の場所にお金を払い続けているし、脳を保管するフリーザーも20台近く購入している。

とにかくラボを維持しつづけるためには、いの一番にお金が必要だということだ。

 

僕(Co-PI)がラボを立ち上げるときに最初にとったグラントは RO1 だった。

同じ研究テーマで RO1 をいくつもとるのは難しいから、他のグラントも色々とったよ。

ビジョン

もう一つ、優秀な研究者達に集まってくれるために大切なことは、「自分が明確なビジョンを持っている」という事。

そのビジョンが魅力的であればあるほど、若くて優秀な人物は集まってくる。

 

例えば僕たちのビジョンは、「人のサンプルを使って、人の病気を治す研究をする」こと。

僕は今のラボを立ち上げたときから人の剖検脳を集め始めた。

そうしたら、脳神経内科医のグループと知り合いになり、彼らは髄液や血液を保管しているという。

彼らと仲良くなって、剖検脳を提供してくれた患者さんの生体試料もストックできるようになった。

しばらくして、それらのサンプルを使って DNA 解析ができる人を探し、ビジョンを話して仲間になってもらった。

彼らは僕たちが集めたサンプルで遺伝子解析を行い、FTLDとALSに共通の遺伝子変異を見つけ、世界の常識を覆したんだ。

遺伝子解析グループは、今も現在進行系で、どんどん新しい変異やリスク多型を見つけている。

脳神経内科医でも、臨床が専門、画像が専門……といろいろな人達がいる。

それぞれの分野で優秀な人達に話を持ちかけ、どんどん仲間に入ってもらったんだ。

リーダーシップ

仲間に入ってもらったら、彼らが働きやすい環境を提供し、常にモチベートする。

「ここでだったら自分の能力を存分に発揮できる」と思ってもらうんだ。

そして、ある程度自分で資金を獲得できるようになってきたら、独立してもらい、うちのラボとの関係も続けてもらう。

 

彼らは僕よりずっと優秀だ。

僕の仕事は、僕より優秀な人達を集め、彼らを繋ぎ、彼らが大きな仕事を成し遂げる為の架け橋になることだと思っている。

Q2. どうやったら症例が集まってくる?

質問内容
私が以前所属していた大学では、剖検症例数が毎年減ってきていて、今は年に2,3例くらいと落ち込んでいます。どうやったらここのようにたくさん剖検症例を集める事ができるでしょうか?

回答者:PI

ここの脳神経内科医達は、それぞれの疾患に特化して診察をしている。

アルツハイマー病、パーキンソン病、前頭側頭葉変性症など、それぞれ大きなセンターをつくって、それぞれ特定の疾患の患者さんのみをフォローするようにしている。

プライマリーケアでそれぞれの疾患が疑われた患者さん達は、それぞれのセンターに紹介される。

患者さんも「ここなら専門だから」と信頼し、その後亡くなるまでずっとそのセンターでフォローされる。

ドクター達がその疾患と患者さんに対して誠心誠意を尽くすから、患者さん達も、

「先生達がこの病気の治療法を見つけるために使ってください。」

と、亡くなった後に献体してくれる。

そして、それぞれのセンターから、このセンターに剖検脳が集まってくる。

 

このような信頼関係は一朝一夕で構築できるものではない。

大切なのは、専門に特化し、患者さん達の信頼を得ること。

 

私の感想

双方の意見とも、とても納得できるものばかりでした。

私は、以前所属していた日本のラボに帰る予定なので、そのラボに足りないものは何か、という視点で話を聞いていました。

その大学自体は知名度が高く、当院に通いたい患者さんは大勢いますが、専門のセンターはありません。

多くの症例をフォローできるだけのキャパシティがないので、患者さんを紹介されても、基本的には紹介元でフォローしてもらいます。

認知症センターのようなものを作り、紹介元でフォローされながらも、こちらのセンターにも年に1回くらい通っていただく、のような制度が作れれば、或いは可能かもしれません。

 

しかしながら、構想だけでは絵に描いた餅……

以前、日本の元同僚にブレインバンクについて意見を伺ってみたら、

「今の状態じゃ、症例がたくさんきても病理診断をしきれないし、保管場所もないから、すぐキャパ超えする。

キャパ的には年に2,3症例くらいが限界で、サンプルがほしい時には他の施設のブレインバンクからもらうのが一番賢い選択だと思う。」

と言われました。

確かに、現状はそのとおりだと思います。

システムの構築や保管場所の確保だけでも相当な資金を確保する必要があると思いますし、管理する人や専門の病理診断医も必要となります。

 

とても個人の手に負える構想じゃないとはわかっているのですが、

「でもなー、折角大きな大学で患者さんの信頼も厚いのになー、なんとかならないかなー。」

という気持ちが拭えません。

 

例えば、日本でもブレインバンクはいくつかあるので、

  1. 既存のブレインバンクに加えてもらいながら、当院でもセンターを立ち上げる。
  2. 関連病院と協力しながら患者さんをフォローするシステムを作る。
  3. 患者さんが検体を提供してくれたら、それを提携先のブレインバンクに送る。
  4. 研究で必要なときは、そこからサンプルを提供してもらう。

みたいな事ができないかなー、と思いました。

 

……今の所、これが私の「ビジョン」。

その内容を魅力的に人に伝え、多くの意見を取り上げて発展させ、資金を集め、人を集め……

 

CO-PI と PI の話を自分にあてはめると、こんな感じかなー。

にほんブログ村 子育てブログ ワーキングマザー育児へ