ある土曜日の寒い朝、
夫が「午前中ラボで仕事をしてくる」と言って、朝5時半ごろ家を出ました。
そして30分ほどたった頃、彼から電話がかかってきました。
「事故ってしまった……」
電話口の先では、聞き覚えのあるクラクションがずっと鳴りっぱなしになっています。
凍結道路で車がスリップ
話を聞くと、連日の寒波により道路が凍って車がスリップし、
全く操縦不能のまま壁に激突したらしいです。
かなり交通量の多い場所ですが、朝早かったので、他の車や歩行者を巻き込む事はなかったとのこと。
自身にも怪我はないそうですが、車は右横がかなりダメージを受け、エアーバックも飛び出してきたそう。
フェンダーがタイヤに食い込んでいるので、このままの運転は難しいとのこと。
……かなり大きな事故のようです。
朝早かったので、友達に連絡するのも気が引け、
とりあえずどうしたらいいかネットで検索しました。
「えーと、まずは警察を呼んで、保険会社に電話……」
車が動かせないという事なので、夫が警察に連絡している間、私はロードサービスのAAAに連絡しました。
以前は自動車保険もAAAに入っていましたが、1年程前に「保険料を安くしたい」と夫から提案され、別の保険会社に変更していました。
「ロードサービスだけ引き受けてくれるのかな……」
と不安になりながら連絡しましたが、窓口の担当者は話を聞いてくれて、牽引車を手配してくれるとのこと。
事故にあった場所を伝え、私は電話を切りました。
よくわからないまま車を牽引される
しばらくすると、再び夫から電話がかかってきました。
内容は、
「牽引車がやってきて、車を近くの整備会社に運んでくれた。今日は休みなので、また週明けに担当者と相談することになる。」
とのこと。
車を牽引してくれた人はいい人だったようで、そのまま夫を家まで連れて帰ってくれました。
ただ、後から話を聞くと、車を牽引してくれたのはAAAの人ではなく、
警察が手配した整備会社の人だったよう。
夫はAAAに牽引してくれたと思っていたようですが、
後にAAAの人から電話がかかってきました。
AAA「AAAだけど、事故現場に来たのに、君も車もいないのはどういうわけ?」
夫「あれ?AAAが来て車を整備会社まで運んでくれたけど。」
AAA「何言ってんの?僕がAAAだけど、まだ何もしてないよ。」
……というやりとりを経て、夫は別の人が牽引してくれた事に気づいたらしいです。
じゃあ誰が牽引してくれたのかというと、
夫「多分、警察が手配してくれたのかな。
警察に電話した時、『自分で車を動かせるか』って聞かれて、『動かせない』って答えたんだ。
その後、警察は来なくて、その牽引車が来たんだ。
対人対物事故じゃなければ、警察は関与しないみたいだね。」
とのこと。
……なんかよくわからいけど、とりあえず車は運んでもらえたし、夫は無傷で帰ってきたし、よしとしよう……
という感じで、その日は終わりました。
整備会社からの高額請求
週明け、車が使えなくなったのでレンタカーを借り、夫は再び整備会社のB社に向かいました。
そしてその日の夕方、彼は若干曇り顔で帰ってきました。
夫「担当者が『ここで修理したいか』と聞いてきた。
後々の事もあるので、この車を購入したディーラーのところで修理してもらった方がいいと思う。
ただ、彼らは僕らの車の鍵がどこにあるかわからないみたいで、明日また来るように言われた。」
との事。
私「まさか、鍵を無くされてないよね……」
翌日の朝、出勤途中で夫とB社に立ち寄りました。
私は車の中に残り、夫が会社の中に入って行きましたが、しばらくしてかなり渋い顔で帰ってきました。
夫「ちょっと、大変な事になった……。」
話を聞くと、先日とは違う担当者になっていて、
「鍵はない。
車を移動するのは構わないが、先に料金を払わないと車は渡せない。
料金を払えば、鍵を探してやる。」
というのだそうです。
そしてその金額は、
- 牽引料:250ドル
- 登録料:175ドル
- クリーニング料:100ドル
- 人件費:160ドル
- 入庫料:75ドル
- 駐車料:50ドル/日+全体の25%
合計、1,000ドル以上(日本円で11万円以上)
私「なにそれ……」
確かに事故現場からここまで牽引してもらいましたが、
今日までの間、彼らは私達の車を道路脇に放置したままで、駐車場にも入れておらず、点検も何も行っていないのです。
しかも鍵は本当に無くしている様子……
通常は保険で支払えば良いのですが、
残念ながら、私達は保険会社を変更した際に、自損事故の保証を外していたのでした……全額自費、という事になります。
友達に助けを求める
世間知らずの私達でも、さすがにこれはボッタクリだと思いました……が、ここはアメリカ。
「アメリカの常識はアメリカ人に聞くしかない。」
という事で、私は知り合いのアメリカ人に電話をかけまくりました。
そして、3回目で一人の同僚に電話が繋がりました。
その人はちょっと無愛想で若干苦手なタイプだったのですが、ここは腹をくくるしかありません。
私「斯々然々で、いまコレだけの金額を請求されているんだけど、これってアメリカでは常識?」
彼は、すぐに状況を理解してくれたようです。
「僕でもありえないと思う。これは詐欺に近い。
道路脇に置いたままで、点検もなにもしていなければ、通常は牽引料だけ払えばいいはず。
こういう事をする人達はいるんだよ。
彼らは、君たちが日本人だからではなく、誰にでも同じことをしているんだよ。
でも君たちは言葉と文化の壁があるから、話し合いが不利なのはよく分かる。
Dawnに相談したらいいと思う。彼女はここで生まれ育ったし、性格もアレだし……」
Dawnというのは同僚女性の一人です。
かなり率直に話をする人で、よく「F○kin ☓☓」とか言っているので、確かに見方になってもらうと心強い印象。
彼がすぐにDawnに連絡をとってくれたのですが、彼女は丁度、初代培養の作業中で手が話せない様子。
しばらくして、彼女の旦那さんのTakから電話がかかってきました。
救世主現る
Takの最初の一言は、
「あーあ、B社に車を運ばれちゃったの。」
でした。
彼は、自動車事故関係の仕事をしているらしく、B社の職員とも顔なじみとのこと。
そのTakから次に聞いた言葉は、
「彼らはね、泥棒だよ。」
私「え?泥棒?」
Tak「そうだよ。これはヤバいよ。彼らは悪い奴等で、値引き交渉しようと思ったら、警察を巻き込むしかないよ。
とにかく、一日でも早く車を取り戻さないと、駐車料とか何とかいって、毎日金額が増えていくよ。
できるだけ融通を効かせるようにオーナーに電話してあげるけど、ある程度は支払わないといけなくなると思う。」
私「でも、夫の話によると、警察がB社を手配してくれたみたいなんだけど。」
Tak「高速じゃなくて一般道路だろ?そこは○○警察が管理しているんだけど、そいつらはB社からお金をもらってるんだよ。
そして事故った車を優先的にB社とかに運ばせてるわけ。
警察だからといってみんな信用できるわけじゃないんだよ。」
私「マジで!?」
Tak「あと彼らは、自分たちでも無線でずっと事故を探している事があるよ。
周辺で事故があったら、いち早く駆けつけて自分たちの工場まで車を運んでしまうんだよ。」
私「……(絶句)」
Tak
「修理は僕が長年付き合いがある『いい整備会社』に頼んだ方がいいよ。
その周辺だと3つぐらいいいところがあるよ。
車を買ったところに持っていきたい気持ちはよくわかるけど、車はホンダのPilotでしょ?
君たちの近くのホンダだったら〇〇でしょ?
そこは、△△に整備を委託していて、□□で……
僕のいう『いい整備会社』だったら、1990年くらいからの付き合いだから、
僕が『友達で保険に入っていないから、できるだけ安くしてあげて』
ってお願いできるしさ。
でも、決めるのは君たちだから、僕は強制できないしね。
僕の話が本当だと思ったら、もう一回電話かけてきたらいいよ。
テキストでその『いい整備会社』の情報を送るからさ。」
・
・
・
色々戸惑いましたが、電話を切った後、B社の事をGoogleやYelpで調べてみました。
すると、本当にとんでもないことが書いてありました。
評価は軒並み低く、★1つか2つ程度。
レビューには、
「最悪の詐欺会社。事故ったらいきなりココに車を運ばれて、駐車代とか言われて2,000ドル(約22万円)払わされた……」
「ここには絶対行ったらダメ!何もしていないのにめっちゃ高い金額を要求されて……」
などのコメントが並んでいました。
確かに、こんな目にあったのは、私達だけではない様子。
そして、他の人達も要求された金額を支払ってきたみたいで、「コレは詐欺でしょ。」と立ち向かえる相手ではなさそうです。
そして、Takのいう「いい整備会社」達も調べてみました。
こちらはB社とは打って変わって、どこも★4.8以上。
レビューもいいことばかり書いてありました。
……Takの話は本当のようです。
お金を支払い、車を取り戻す……が、鍵は取り返せず
だんだん状況を理解してきた私達は、一刻も早く車を取り戻し、Takの紹介してくれた整備にお願いすることにしました。
夫がもう一度B社に電話をかけ、Takの指示どおり「オーナーに繋いでほしい」とお願いしました。
すると、オーナーが電話口にでて、
「いくらなら支払える?」
と聞いてきました。
どうやら本当にTakが電話で交渉してくれていたようです。
夫とオーナーとの交渉の末、金額は800ドル程度に値引きしてもらいました(それでも十分高いですが……)
翌日、夫が車を引き取りに行きましたが、しばらくして彼から電話がかかってきました。
「金額は昨日の話し合いの内容と同じだったけど、やっぱり彼らは鍵を無くしたみたいだ。」
とのこと。
私はすぐにTakにテキストして、
「鍵を無くされたみたいなんだけど、どうすればいい?」
と訪ねました。
Takはすぐに、
「鍵の複製には100ドルかかる。Laborもいれて、200ドル請求するんだ。」
と返信してくれました。
夫にその事を伝えしばらく待ちましたが、数時間後に彼から電話が。
「言われた通りに請求してみたんだけど、
『鍵は絶対に車を牽引したヤツが持っているはずだ。今呼んでいるから、ここで待て』
の一点張りで……
1時間以上待ったけど、全然来る気配も無いし……これ以上待っても時間の無駄だから、諦めてお金を支払ってここを出ようと思う。」
とのこと……夫なりに頑張ったようですが、歯の立つ相手ではなさそうです。
彼はそのまま料金を支払い、AAAを手配して「いい整備会社」の1つ、C社まで車を運んでもらいました。
車を『いい整備会社』に預ける
夫の話によると、C社の整備士はとても感じのよい人だったようで、
「これはかなりやられてるから、修理するとなると相当高くなりそうだな。
でも、Takの友達だから、できるだけ安くしてあげるよ。
Takにも伝えておくよ。」
と言われたそうです。
修理代がいくらになるかがかなり不安ですが……B社と縁を切る事ができたので、まずは一安心。
また、Takはレンタカーに関しても色々骨を折ってくれて、
今支払っているレンタル料のレートを、「retailer rate」から、一段回安い「replacement rate」に変更してもらうよう、直談判してくれました。
(結局、レンタカー屋さんの融通が効かなくて、replacement rate には変更できませんでしたが……)
- 世の中には悪い人達がいると心得よ
- 自動車保険は、自損事故に対応する補償も絶対に入れておくべし
- 困ったら、勇気を出して誰かに相談しまくるべし
それにしても、相当高い授業料になりそうだな……orz