アメリカに来て、2年半が経過しました。
当初思い描いていた生活とはかなり異なる状況にはありますが、なんとか生活しています。
去年の初めあたりは、精神的にかなりキツく、
「しばらく休暇をとってカウンセリングを受けるしかない。」
と思い、
大学のカウンセラーに予約をとって、PIに休暇願を届ける準備を進めていました。
Nietzsche famously said
“Whatever doesn’t kill you makes you stronger.”
……But what he failed to stress is that it almost kills you.
— Conan O’Brien (1963–) at the 2011 Dartmouth Commencement address
ニーチェは言った「あなたを殺さないもの全てがあなたを強くする」
……だが彼が強調し損ねたのは、「それはあなたをほぼ殺す」という事だ
ちょうどその時に訪れたのが、COVID-19 のパンデミックです。
土曜日にカウンセリングを予定していたのですが、その週の木曜日に大学が閉鎖し、カウンセリングも受けられなくなりました。
数カ月間実験ができなくなり、子供達のオンライン授業のセットアップに追われながら、自宅でスライドをみたり、デスクワークをしたりして過ごしました。
ミーティングは全てオンラインで行われ、研究結果の報告頻度も減りました。
「実験ができない」
と割り切る事で、精神的負担はかなり軽減されたように思います。
休暇願を届けなくても休暇がとれた、という感じです。
また、子供達のとの時間を多く持ち、家族の時間を大切に出来たことは、唯一の宝だと感じています。
「焦燥感」は、毎日のようにつきまとい、
心休まる日はありませんが、
不完全な私なりに、与えられた時間を使って模索した内容と、今後の取り組みについて、書き留めておきます。
読書
自宅にいる間は、自分の時間をできるだけ読書に当て、
過去、そして今の状況を作った原因は、これまでの自分のどのような思考や行動にあるのか、
これからどのように考え、行動していけばよいのか、
毎日考えるようにしました。
この事は、私にとってかなり大きな変化でした。
今まで、忙しさを理由に、自分の為の読書をほとんどしてきませんでした。
費やした時間に見合うだけの仕事をしてきたわけでもないのに、自己投資を怠ってきたと思います。
もし可能なら、遊んでばかりいた大学生時代の自分に、
「今、本を読みなさい」
と伝えてあげたいですが、時間は元に戻りません。
これからも、忙しさを言い訳にせず、読書の時間を確保していこうと思います。
アウトプット
以前からアウトプットの重要性については考えていたのですが、
樺沢紫苑さんの「アウトプット大全」という本を読み、その意識が高まりました。
インプットばかりに重点を置いても、その情報は自分のものにはなりません。
アウトプットは、自分のために行うべきだと思います。
「アウトプット大全」の中で、「何かを学んだらすぐブログかSNSで発信する」と繰り返し書かれていました。
ただの日録として初めた当ブログですが、この本を読んだ後から、私の中でのブログのポジションが変わりました。
学んだこと、考えたことを風化させないために、とにかくアウトプットする……
アウトプットを練習すれば、アウトプット効率もあがり、より多くのインプット/アウトプットが可能となる……
まだ効率が悪く、インプットした内容の半分もアウトプットできていませんが、
Twitter etc. もう少し効率的なアウトプットの方法もとりいれつつ、継続していきたいと思います。
研究に対する意識の変化1:研究室
アメリカに来た当初は、何か新しいことを学べるのではないかとワクワクしていました。
最初は、英語のディスカッションについていけず、内容がよくわかりませんでしたが、
徐々に英語に慣れてくると、彼らの話している内容は、私にとってそこまで斬新なものではないと感じるようになりました。
場合によっては、自分のほうが知識や経験がある、と思う内容も多く、これは予想外でした。
つまり、自分たちがこれまで日本の研究室でやってきた事は、
そんなにレベルの低いものではなかった、と思うようになっています。
けれども、研究業績等は、明らかにこちらのラボのほうが優っています。
では、日本で在籍していたラボとここのラボでは、何が違うのでしょうか。
現時点で私が感じている事は、下記2点です。
- プラットフォームの構築
- ハイレベルな人達とのコラボレーション
プラットフォームの構築
1つ目は、プラットフォームの構築です。
ラボのCO-PIが主に担っているのですが、この大きな大学の組織力を十分に活かして、巨大なプラットフォームを構成しています。
遺伝子解析部門、ブレインバンク部門、病理部門、画像解析部門、臨床解析部門、バイオマーカー部門、創薬開発部門等、
約20ほどの部門に各分野のエキスパートを配置し、それぞれのエキスパート達が自由に考え、意見を交わし、すぐに行動できる環境を構築しています。
彼らには彼らの本業のグループがありますが、その人達を集めて、別の肩書を与え、それぞれのリソースを利用できるようにしているのです。
そして、自分たちのリソースも完全にシステム化し、目的のリソースがすぐに手に入るように工夫されています。
日本で働いていた大学は、ノーベル賞受賞者を多く輩出し、自分たちに近い分野のエキスパート達もたくさん在籍していたのですが、
AMEDから強制的にコラボレーションを要求されるまでは、それらのラボとの横のつながりは、ほとんどありませんでした。
ラボのメンバー一人ひとりのレベルもある程度高かったとは思いますが、それぞれがバラバラの事をしており、すべて自分達だけで完結させている、という印象でした。
CO-PIと以前交わした雑談の中に印象的な言葉があります。
「僕は2,3割知っていたら、それ以上は知らなくていいんだ。
その方が、任された人達が自分で勉強して立派な中身をつくってくれる。
優秀な人達に自由に働いてもらう事、
優秀な人達同士をつなげる事、
これが僕の仕事だ。」
プラットフォーム構築については完全に素人で、日本に持って帰るべき内容だと思います。
現代社会において最も重要な事の1つだと感じているので、ここにいる間にもっと学びたいです。
ハイレベルな人達とのコラボレーション
プラットフォームの構築とも繋がりますが、このラボで最も大切にしている事は、「コラボレーション」です。
まず、大量のヒトサンプルで解析ができる、という自分たちの強みを活かし、
それを欲する、別分野のエキスパート達と次々とコラボレーションして、自分たちだけでは無理な内容もクリアしていきます。
ラボのメンバーの中でもそれぞれ得意分野が違うので、必ずディスカッションし、コラボレーションするように強く求められます。
「1人だけでやっていたら絶対ダメ!こんなにも周りにエキスパート達がいるんだから。Talk, Talk, Talk!!!」
というのがPIの口癖です。
常に周りの人達とつながり、気になることがあったら、すぐに聞くこと、話をすること……とても大切なことだと思います。
また、そのような人達と win-win の関係を作るためには、自分が相手にとっても有益でなければなりません。
自分の強みを知り、それを磨くことも、並行して進めていく必要があると思います。
研究に対する意識の変化2:自分
自分の現状について省察。
自分と他のポスドクとの違い
先に上げたように、自分はある分野においては他の人達よりも知識や経験がありそうですが、別の分野においてはやはり自分よりも遥かに知識や経験がある人達がいます。
このような環境を活かすか殺すかは、自分次第だと思いますが、私の場合は十分に活かしきれていないと感じています。
理由として挙げられるのは下記2点です。
- 英語能力が不十分
- 頭の中で情報の整理ができていない
英語能力が不十分
理由の1つは英語で、時に言いたいことがすんなり出てこない事があります。
ラボの人達はとても親切なので話を聞いてもらえますが、PIが常に大声を上げるミーティングとなると、話の流れを中断して発言することは毎回躊躇われます。
頭の中で情報の整理ができていない
もう1つの理由は、私の中で情報や考えを十分に整理しきれていない事にあります。
「エレベーターピッチ」という、エレベーターに乗っているくらいの短い時間でプレゼンする手法を知りましたが、
今の私だと、いきなり15–30秒くらいで話せ、と言われても何も発言できません。
今の環境において、ただ人の発言を聞いているだけでは、学べることは少ないと思います。
PIやラボのメンバーの質は高いと思うので、こちらから発言し、それに対しての意見を聞く事で、初めて学びが得られるんじゃないか、と考えています。
研究内容への意欲
大学院生時代は、自分の知らない事を毎日知ることができるので、ワクワクした気持ちで実験に取り組んでいました。
日本でのポスドク時代は、ある程度方向性のある仮説に向かって進み、仕事をまとめる、という気持ちの中で研究していました。
今は、というと……残念ながらワクワク感はありません。
原因の1つは、自分が計画していたプロジェクトをしっかりと提案できないまま引っ込めてしまったこと。
そして、原因の2つ目は、上から指示されたプロジェクトの意義を掴みそこねている事です。
今のラボでしかできないことではあるので、まとめたら大きな仕事にはなりそうだと思いますし、途中で投げ出すつもりはありません。
ただ、プロジェクト自体には積極的に向かい合えず、ここ数ヶ月は、quarantineを利用して別の勉強に時間を使っていました。
最近、安宅和人さんの「イシューからはじめよ」を読み、プロジェクトの考え方や取り組み方について、自分はわかったつもりでわかっていなかった、と痛感しました。
今の年齢で、あとどれくらいの年月が残されているか考えると、挫けそうになりますが、今の時点からできることを考える以外に選択肢はありません。
幸いにも、今年の春頃「自分で考え、自分の強みを活かしたプロジェクト」を1つ提案し、PI達から許可を得ました。
色々遅いかもしれませんが、準備は整っているので、今のプロジェクト達をできるだけ早く終わらせて業績を得た上で、あと1回だけ、チャンスを掴みたいと思います。
感謝
自分自身に対してはネガティブな印象が強いですが、私の置かれている環境には感謝しかありません。
夫や子供達、両親、兄弟姉妹、親戚、友達、職場の上司や同僚、アメリカでお世話になっている方々、帰国後のサポートを考えて頂いている元職場の上司、
そして、私のような人間に関わって頂いた全ての人達に感謝の気持ちを忘れず、これからも過ごしていきたいと思います。
今年もよろしくお願いします。
2021年1月
いつも研究関連のことや読書ログを参考にさせていただいています。いろいろ大変な状況になっても家庭と研究を両立されていて憧れます。
家庭生活を犠牲にすることなく、実験や研究関連のこと、自己研鑽のための時間を捻出するためにどのように時間管理されているのか教えていただけたら嬉しいです!
コメントありがとうございます。
時間管理については、私にとっても目下の課題です。
「子供達が起きる前の4:00-6:00amを論文やブログの時間」
「子供達が家に帰る前の1時間を読書の時間」
に充てるようにしていますが、仕事が押したりして、なかなか計画通りにいかない日も多いです。
ただ、「子供といる時には、仕事をしようと考えない事」は、重要だと思っています。
まだまだ道半ばで、今は「自分で配分した時間内でそれぞれのタスクを完結させる方法」を検討中です。
お互い頑張りましょう!
ご返信ありがとうございます。
私はいつもできていないことが頭の中にモヤモヤ残り、家事育児の合間に必要以上にメールをチェックしたり、考えごとをしてしまい、効率が悪いだけでなく子供を蔑ろにしていました。
「子供といる時には、仕事をしようと考えない事」、何事も目の前の事に集中するのが大事なのですね。
これからもブログ楽しみにしています!
ありがとうございました。