本記事は、少し前、私の身近な人が他界する前後に書き溜めていたものです。
遺族の許可を得て投稿しておりますが、ここに書かれていることはすべて私の主観を元に書かれている点をご了承ください。
Co-PIが事故で緊急入院した日の翌週、私と夫は、彼の奥さんであるPIとミーティングの予定が入っていました。
手術は無事に終了したと聞いていましたが、彼の容態はどんな様子なのか、私達は心配しながらミーティングルームで待機していました。
PIは時間通りに部屋に入ってきて「Hi」と言うと、笑顔のままいつもの席につきました。
私達が彼の容態を尋ねると、彼女は笑顔のまま、
「手術は無事に終わったんだけど、呼吸が不安定で呼吸器が外せないみたいなの。」
と言いました。
血腫のあった頸髄レベルでは呼吸にまでは影響しないと思っていた私は、大変驚きました。
もう少し上のレベルまで圧迫されていたのかもしれない、でも画像で写っていなかったのならまだペナンブラの状態で、回復可能かもしれない、それとも他の要因が……?
色々な可能性が頭の中を駆け巡りましたが、それ以上は尋ねられませんでした。
時間は限られているので、私達はそのままプロジェクトの話を始め、彼女はいつも通りの鋭い眼差しでプレゼンを聞きながら、いつもより急かし気味に質問や意見をしてきました。
そしてものすごい勢いで今後の方針が決まり、次のミーティングの目処を立てて、会は終了しました。
「Great!ありがとう。じゃあ、また今度ね。」
と言って彼女は笑顔で席を立ち、そのまま部屋を出ようとしました。
私が
「ありがとう。私達も彼の為に祈ってる。」
と声をかけると、
ドアノブに手をかけたPIが突然立ち止まり、そして振り向きました。
彼女は少し震えた声で言いました。
「あなた達もドクターだから色々わかるんでしょう?彼が昔にフットボールしてた事とか、あなた達が主治医なら彼を止めてたでしょう?将来こうなるからよくないとか……」
彼女は笑顔のままでしたが、今にも泣き出しそうに見えました。
彼が若い頃にしていたスポーツと今回の出来事は直接的には関係ないですが、彼女の言いたいことはよくわかりました。
私自身、彼の最近の様子を見ながら、もっと危険を回避するような生活環境整備など、アドバイスしたいことはたくさんありました。
けれどもそんな事は彼の主治医だって色々伝えていたはずですし、
ただの部下であり、彼の主治医でも何でもない自分から余計な事は言えないと、いつも気を揉みながら彼らと接してきました。
「ごめん、ありがとう。私も絶対よくなるって信じてる。じゃあ、またね。」
と言って、彼女はそのままドアを開けて部屋を出ていきました。
ドアを閉めるとすぐに他のスタッフと出会ったらしく、いつもの快活な声で談話しているのが聞こえてきました。
私はしばらく言葉が出ず、彼女が出ていったドアを見つめていました。