強いストレスで髪が抜ける、という事は聞いたことがあると思います。
私の身内にも、しばらくの間円形脱毛症で悩んでいる人がいました。
でも、どうして強いストレスを受けると髪が抜けるのでしょうか?
今回、アメリカ・ハーバード大学のDr. Hsuらの研究グループは、ストレスホルモンと脱毛の関係について研究し、そのメカニズムにGAS6という分子が関与している事を明らかにしました [1]。
ストレス性脱毛のメカニズムにGAS6が関与
彼らは、まず多くのストレスホルモンの分泌源である副腎に着目し、マウスの副腎を除去して毛を剃り、新たに毛が生えてくるスピードを調べました。
すると、副腎を除去したマウスでは、そうでないマウスに比べて新たに毛が生えてくるスピードが格段に早い事がわかりました。
副腎ホルモンのどのホルモンが毛の再生スピードに最も関係している調べるため、
副腎除去マウスに一つ一つホルモンを補充して調べたところ、ストレスホルモンの1つであるコルチコステロンを投与したマウスでは、毛の再生スピードが遅くなる事がわかりました。
コルチコステロンは、真皮乳頭の幹細胞に作用して、毛包幹細胞の休止期を延長させ、毛の発育を抑える作用がありました。
コルチコステロンが毛包幹細胞の休止期を延長させるメカニズムを調べるため、RNAシークエンスを行ったところ、候補分子としてGas6が浮上しました。
単離した毛包幹細胞にGAS6を処置すると、コロニーの増殖が促進され、GAS6は毛包幹細胞の休止期を増殖期にスイッチする働きがあると考えられました。
またGas6は副腎除去マウスで減少しており、Gas6はコルチコステロンの下流因子で、
ストレス
↓
副腎コルチコステロン上昇
↓
GAS6抑制
↓
毛包幹細胞の休止期延長
↓
新たな毛が生えてこなくなる
というメカニズムが考えられました。
副腎除去マウスにAAVベクターを使ってGas6を過剰発現させると、その部分だけ毛が再生されました。
・
・
・
という内容で、ストレスホルモンが毛根の発育を抑えるけれど、下流のGAS6の発現をあげてあげると、ストレス下でも毛が生えてくるみたいです。
脱毛は命に関わるわけではないけれど、困っている人達はたくさんいると思うので、
このまま創薬につながってくれるといいなと思います。
Stress inhibits hair growth in mice through the release of the stress hormone corticosterone from the adrenal glands, which inhibits the activation of hair follicle stem cells by suppressing the expression of a secreted factor, GAS6, from the dermal niche.
Reference
- Choi S, Zhang B, Ma S, Gonzalez-Celeiro M, Stein D, Jin X, Kim ST, Kang YL, Besnard A, Rezza A, Grisanti L, Buenrostro JD, Rendl M, Nahrendorf M, Sahay A, Hsu YC. Corticosterone inhibits GAS6 to govern hair follicle stem-cell quiescence. Nature. 2021 Mar 31. doi: 10.1038/s41586-021-03417-2. Epub ahead of print. PMID: 33790465.