ADと神経新生
ADと神経新生

脳内の神経新生は、大人になってからは脳室下帯→嗅球や、海馬の歯状回など、一部の領域に限られる。

スペインのLorens-Martinらは、アルツハイマー病(Alzheimer's disease:AD)で最も障害される海馬で、神経新生がどのようになっているか調べた。

海馬の神経新生は大人でもたくさん起こっている

大人の海馬の神経新生(adult hippocampal neurogenesis: AHN)は、1998年にErikssonらによって明らかにされたが、その解析は不十分だった。

そこで著者らは、サンプルのpost-mortem delayや固定時間などを条件検討し、AHNをみる方法を最適化した。

この方法では、既報よりもかなり多くのdoublecortin(DCX)陽性の未成熟神経細胞を検出した。

さらに、神経新生がおこる場所以外(entorhinal cortex, CA1, CA3など)でもDCX陽性細胞を認めた。

 

次に著者らは、DCX陽性細胞と他の各ステージの神経前駆細胞のマーカーと二重染色し、それぞれの細胞をキャラクタライズした。

各成熟段階のマーカーとの関係

すると、様々な成熟段階の未成熟神経細胞が存在している事がわかった。

ADでは海馬の神経新生が減っている

次に著者らは、海馬が最も障害される疾患であるADに着目した。

各Braak stageのAD患者(45人、52ー97歳)の検体を同じ方法で調べた。

海馬の未成熟神経細胞の数は、健常人でも加齢とともに減少していたが、AD患者では年齢に関係なく、その数が著減していた。

特に、進行期のADでは、特定のサブセットの未成熟神経細胞の数が減っていた。

また、神経原線維変化や老人斑が歯状回に形成される前、また認知症症状がでる前の早期の段階でもAHNの変化が起こっていた。

DCX+細胞数の比較

cf. Moreno-Jimenez EP et al., Nat Med. 2019 Apr;25(4):554-560. doi: 10.1038/s41591-019-0375-9.

My View

最初の印象としては……俗っぽい感想ですが、今の時代でも古典的な免疫組織学的手法で、Nature Medicineに載るような研究ができるんだなーと思いました。

DCXは微小管と結合する分子であるため、固定条件などを厳密にした事が成功の鍵となったようですが……同じ微小管結合タンパクのタウはよく染まるので、まあ他にも色々理由があるのでしょう。

 

歯状回の未成熟細胞というキーワードで頭の中に浮かんだのは、藤田保健衛生大学の宮川先生達が解析されている「未成熟歯状回(immature Dentate Gyrus; iDG)」でした。

以前、高脂肪食摂食APPマウスの歯状回がどうなっているかみてもらおうとしたことがあります。あの時はそのままうやむやになってしまいましたが、この論文を読んで、今更ながら結果が気になってきました。

 

この論文では、神経原線維変化や老人斑ができる前から海馬の神経新生に変化が起こっているとの事。ADのバイオマーカーや早期介在治療(進行抑制)などへの期待について言及されています。

そうかもしれませんし……そう単純にはいかないかもしれません。よくわかりません。私の頭の中には、結論を出す前に知りたい事柄がいくつか浮かんできました。

Q. なぜ、AD病理ができる前からAHNの変化が起こっているのか?

Aβオリゴマーetc.がAHNに関与しているのでしょうか?

それとも全く関係ない機序からADをとらえる必要があるのでしょうか?

Q. AHNの変化が起こっているとはどういうことか?

前駆細胞達は幹細胞の段階から減っているのでしょうか?(この論文ではDCX+/GFAP+は見ていますが、DCXから離れてSOX2やNestinなどもみたいところです。)

それとも、特定の成熟細胞が脱成熟(Donato et al., Nature, 2013)を起こす事ができなくなった結果なのでしょうか?

Q. 海馬の未成熟細胞を増やす事がADの進行抑制につながるのか?

以前、カナダのトロント大学から出た論文(Akers et al., Science, 2014; Nature News, 2014)で、海馬の神経新生を促すとそれまでに形成された記憶が失われて新しい神経回路が作られる事を示し、海馬の神経新生が盛んな幼児期の記憶が失われやすい事を説明していました。

それを考えると、ADで未成熟神経細胞の数が減っているからといって単純に増やしても、新たな記憶形成には有効かもしれせんが、それまでの記憶の一部は失われるかもしれません。

 

……沸々と上がってきた私の疑問に対する答えになるような論文も、近いうちに発表されるのかもしれません。

にほんブログ村 子育てブログ ワーキングマザー育児へ