ある日のこと、携帯に一通のメッセージが届きました。
Hi! 私のこと、覚えてるかな?このテキスト送るまでにすごく時間がかかっちゃたけど、実は私達夫婦はあなたをうちのバーベキューに招待したいと思っているの。
私達はあなたからすごく刺激を受けていて、あなた達が帰る前に是非直接お別れを言いたくて。
うちはかなり遠いと思うけど、時間のあうときに是非うちに遊びにきてくれない?
そのメッセージは、2年ほど前に退職したAからでした。
彼女はイタリア人で、旦那さんはナイジェリア人。とてもアクティブに仕事をしていましたが、3人目の妊娠・出産の時に産休をとり、そのまま退職していました。
その頃はちょうどCOVID-19が猛勢を振るっていて自宅軟禁の最中だったので、私達は彼女とお別れの挨拶もできませんでした。
正直、彼女とはグループが違って、そこまで色々と話した記憶がありません。
私は最初、詐欺メールかなにかかと思ってしまいました。
ただ、私達が近いうちに旅立つことを、詐欺師が知っているというのも変な話。
夫や子供達に確認すると、
「BBQ行ってもいいよ。」
ということだったので、
久しぶり!BBQに招待してくれてありがとう!家族みんなで参加させてもらっていいかな?
と返事をしました。
車で1時半かけて彼女のお家へ
そして迎えたBBQ当日、彼女の家はうちから1時間半くらいのところにありました。
彼女の旦那さんは別の大学のPIで、お互いの職場のちょうど中間地点に居を構えたとのこと。
彼女はこれまで、毎日往復約3時間かけてラボまできていたのです。
目的のお家に到着すると、5歳、3歳、1歳の、とても可愛らしい3人の子供達と旦那さん、そして彼女が出迎えてくれました。
「遠いところをきてくれて本当にありがとう!」
子供達は早速広いお庭で一緒に遊び始めました。
そして私達は、旦那さんが焼いてくれたお肉と、彼女の手作りのイタリア料理に舌鼓をうち、久しぶりの再開で話に花を咲かせました。
「もうラボには戻ってこないの?」
と私が聞くと、彼女は答えました。
「今は子供のことで手一杯だから、復職はできないかなと思ってる。
復職しても、今度は家の近くのラボにアプライすることになると思うわ。」
彼女の子供達はまだ小さく、COVID-19のワクチンもまだ完全接種できていません。
COIVD-19のパンデミックが始まってからずっと、彼女は3人の子供達を自宅でみており、勉強も全て自宅で教えているとのこと。
あれだけ積極的に仕事をしていた彼女の現在の姿に、意思の強さを感じました。
彼女は続けました。
「私は、本当はもっとたくさんあなたのサポートをできたらいいって、強く思っているのだけれど、私自身もママとして大変な状況にあるからできなくて……母親になるって、本当に大変なことだわ。
何か助けが必要だと思ったら、どんなことでもいいから遠慮なく私を頼って。
あなたのところに駆けつけることはできないけど、アメリカにいる間だったら、シッターを派遣したり、食料品を届けてもらったり、スパのチケットを贈ったりとか、遠くにいてできることはなんでもしたいと思ってる。
私は本気よ。
サイエンスの世界で母親になるというのは本当に大変なことで、私はみんなで助け合うことがどれだけ大切なことか、最近特に身にしみて感じているわ。」
彼女の話を聞いて、私達をBBQに誘ってくれた理由はこれだったのだとわかりました。
私自身も、COVID-19下で子育てをしながらサイエンスの世界を生き抜くことはとても大変だと感じていましたが、彼女の場合は特に子供達が小さいので、私よりももっと大変な状況にあっていたのだと思います。
BBQ後
夕方になり、私達はお礼を行って帰路につきました。
高速道路を走行中、私の携帯には彼女からたくさんのメッセージが届きました。
その中には、女性研究者のキャリア形成を支援するコミュニティーなどの情報も多く含まれていました。
「いつか彼女も仕事に復帰できたらいいな。そしたらまたあの調子でバリバリ働くんだろうな。」
そう思いながら、私は彼女から紹介されたコミュニティーの一つ一つを確認していきました。