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ある金曜日の夜、晩ごはんを食べようとみんなで席についたところで、学校の先生から電話がかかってきました。

「今からお宅に伺ってもよろしいでしょうか?」

担任の先生の来訪

先生の話によると、本日、学校のクラスで次男とお友達が喧嘩になり、お友達くんが次男に強烈な金的を当ててしまったとのこと。

先生が周囲の子供たちから話を聞くと、今回の喧嘩の発端としては次男に非はなく、4人で机を移動させていた時にバランスが崩れてお友達くんのPCが落ち、それを次男のせいだと思ったお友達くんが、次男を攻撃したそうです。

ではなぜお友達くんがそんな態度をとってしまったかというと、最近、次男から「こんなこともわからないの?」と馬鹿にされた事があり、嫌な気持ちが溜まっていたとか。

確かに、次男は時々、人がムッとしたり傷ついたりするような言葉を悪気なくポンっと言ってしまう事があります。同年代のお友達なら、かなり嫌な思いをするでしょう。

 

二人はもともととても仲が良く、いつも一緒にふざけ合って遊んでいる仲間だったようです。

同時に二人は、クラスの中でも飛び抜けて成績が良かったため、お互いをライバルと認識して行動していた節もあったそう。

 

そういえば以前、次男が

「クラスにすごく算数ができるお友達がいるんだよ。公文で中学校の内容まで進んでてすごいんだ。僕も頑張ってるけど、なかなか追いつけないんだ。」

と言っていたのを思い出しました。

その子が、今回のお友達くんだったようです。

 

彼は隣のマンションに住んでいる子で、次男はよく週末に「お友だちのお家に行ってくるね!」と言って遊びに行っていました。

ただの近所の友達かと思っていましたが、二人はそれ以上の、「親友でライバル」といった関係だったようです。

お相手のご両親が謝罪に

「今回は、暴力という形になってしまったので、先ほどお相手のご両親を訪ねて、事情を説明してきました。する、ご両親は、直接謝罪をしたいと言われました。これからお相手のご両親とともに再度お伺いしたいと思いますが、よろしいでしょうか?」

先生は言いました。

 

次男に話を聞くと、「うん、今日、金玉蹴られて痛かったよ。でも今は痛くないよ。」という返事。

もともとカラッとした性格の彼にとっては、ただの日常の一コマだったのかもしれませんが、確かに先生の立場からすると、「暴力は良くない」と子供たちにしっかりと教える必要があるシチュエーションだったようです。

 

私達は「恐縮です。」と返事をして、お友達くんのご両親を迎えました。

マンションの待合室で対面

自宅マンションの階下では、お友達くんとご両親、そして弟妹の5人、家族全員で謝罪に来られていました。

お友達くんはうつむいています。

「この度は、大切なお子様に大変なことををしてしまい、申し訳ありませんでした。」

ご両親はとても申し訳無さそうに、丁寧に謝罪をされました。

 

 

「いえいえ、この度はご丁寧にありがとうございます。」

大人たちの挨拶を交わし、私はお友達くんに尋ねました。

「次男くんがなにか嫌な事を言ってたんでしょう?」

 

お友達くんは、ハッと顔をあげ、そして頷きました。

「どんなことが嫌だったのか、次男くんに教えてくれる?次男くんねえ、どんな事を言ったらみんなが嫌な思いをするか、よくわからなかったみたいなの。」

 

すると、お友達くんはポツポツと話してくれました。

「この間、『そんなこともわからないの』って言われて嫌だったんだ。あと、時々笑われたりするのも嫌だったんだ……」

 

お友達くんの話を一通り聞いた後で、次男は

「ごめんね。」

と言いました。

 

お友達くんも

「ごめんね。」

と言いました。

 

私が、

「これからも、嫌な事があったら、こんな事が嫌だって、次男くんに教えてあげてね。次男くん、わからない事が多いから。また遊びに来てね。」

というと、お友達くんは

「うん。」

と言って笑顔をみせました。

一件落着

「二人ともしっかり話せてよかったです。」

先生は、ほっとした様子で言いました。

 

気がつくと、午後8時半を過ぎていました。

おそらく先生は、事件が起こったあと、一旦収束させてクラスの子供たちを帰宅させ、放課後どうするべきか考え、相手のご両親の元へ事情を説明しに行き、その後うちに来て再び事情を説明し、再び相手の元へ行ってご家族とともにうちに戻り、両者の仲介をした、という感じだったんじゃないでしょうか?

―― たぶんこの時間の時間外手当はつかないんじゃないかな?

と思いながら、私は先生に感謝の言葉を伝えました。

今回の出来事を子どものふざけ合いで片付けず、責任を持って各家庭を訪問し、さらに両親を交えて子供たちを仲介していただき、ありがたい限りです。

 

私達は、最後にみんなで丁寧にお辞儀をして、解散しました。

そして翌日

翌日は、土曜日でした。

「お友達の家に遊びに行ってくる!」

と言って次男は、昨日喧嘩したばかりのお友達くんの家へと、家を飛び出していきました。

 

大人の場合、仲直りしてもしばらくは「気まずいなー」と思いそうなところですが、彼の中にはそんな気持ちは微塵もないようです。

 

しばらくすると、次男はお友達くんとその弟くんを連れて、家に帰ってきました。

「次はうちで遊ぶ事になったー。」

そう言って、3人はドタドタとリビングへ向かい、わやわや言いながら遊んでいました。

 

3人とも、昨日の喧嘩騒動の事を忘れているかのように、笑顔でふざけ合っています。

「子供の喧嘩は、すっきりしてていいなー。」

 

私は、少し驚き、そして感心しながら、彼らにおやつを持っていきました。

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