先日、PIと私と夫、3人でミーティングがありました。
最近、PIとCo-PIが共にラボに来られず、グループミーティングなどにも出席できずにいたので、私達のプロジェクトの進行状況の確認と、今後のキャリアプランなどについて話したいと、忙しい時間を縫ってPIがミーティングを設定してくれました。
私達は、現在の大変な状況下でわざわざラボに来てくれるPIに感謝し、10分前から部屋に入って彼女が来るのを待ちました。
PIがラボに到着する時間は確定せず、15分間の時間帯のいずれか、という事でしたが、彼女はその指定した時間帯に現れました。
席につくと、彼女は笑顔を浮かべながら、最初に
「Co-PIも来たがってたんだけど、ここに来られなくてごめんなさいね。」
と謝罪の言葉を述べ、ミーティングが始まりました。
私達は、お互いの近況を報告しあい、今後の方針についても話をしました。
今回、特に話したかった事の一つは帰国時期の事で、
本来の契約は今年の6月までなのですが、夫も私も現在進行中のプロジェクト達の目処をその期限までにつける事が難しそうなので、契約を今年の9月までに延ばしてもらうようお願いしました。
PIは、
「もちろん!あなた達はとても productive だから、こちらとしてはもっと長く居てほしいくらいよ。
特にあなた達の writing は群を抜いて素晴らしい。
察するに、お互い原稿を見せあって、推敲しあっているんじゃない?
あなた達二人なら、日本に戻っても、二人とも成功するって確信しているわ。」
と、二つ返事でOKしてくれました。
また、彼女は私達が二人ともテクニシャンなしで働いている事を気にかけてくれて、
「誰か学生さんとか手伝ってもらえる人はいないかしら?
それか、Sのテクニシャンをあなたにつけるよう私から指示するわ。
Sは much less productive!
それに彼の英語は terrible で論文も全然まともな文章が書けないから、できるだけ早く辞めてもらう。」
などと、相変わらずシビアで歯に衣着せぬ物言いながら、私達の仕事のサポートをしてくれる人を何とか考えてくれているようでした。
今回、何かについて話す、という事は事前に特に指定されておらず、私達は最近の事や今後の予定などについてPIと雑談のように会話しました。
PIは言いました。
「あなた達は本当に素晴らしい。
夫婦で同じラボにいるのに、お互い compete したりしないで、常に協力しあってやっているでしょう?
なかなか簡単な事ではないわ。
あなた達の関係は、私とCo-PIの関係とそっくりよ。」
そして彼女は、夫の方を向いて話し始めました。
「あなたに是非伝えたい事があるの。
あなたも素晴らしいけど、あなたの奥さんは fabulous!
彼女はアメリカで研究を続ければ絶対に成功するわ。
でも、私は、日本には女性が活躍するにはまだいくつものバリアがあると思ってる。」
彼女は続けました。
「80年代の頃の私がそうだった。
あの頃は、女性が社会で活躍するのはまだ難しくて、私は何をしたらいいかわからなかった。
だから一度製薬企業で働いてもみたんだけど、それは私のしたいことじゃなかった。
その時、Co-PIは既に自分のラボを持っていて、私も彼と同じ大学で働けるよう、上に働きかけてくれたの。
で、上からグラントを獲ったらポジションをくれると言われて、私は2つグラントを獲って、やっとCo-PIと同じ所でfacultyとして働き始める事ができた。
それから後も、彼はずっと私を応援してくれて、『君ならできる』と、毎日のように励まし続けてくれたの。
そして、彼の専門と私の専門を融合してできる一番大きな事は何か話し合って、今のような研究を始める事にしたの。
彼が居なければ、今の私はなかった。
だからあなたにも、日本で彼女をしっかりとサポートしてほしいの。
あなたが先にいいポジションを get したら、絶対彼女を推薦して。」
PIは夫の目を真っ直ぐに見て話しつづけ、彼も私の隣で力強く頷きました。
私は、いつもなら "That means a lot coming from you." などと返していましたが、
今回はそんな言葉を使うのもおこがましく感じ、ただ「ありがとう」と言うので精一杯でした。
設定されていたミーティング時間のギリギリまで、彼女は話続けました。
そして、「もうこんな時間。行かなくちゃ。」と言って、笑顔で立ち去っていきました。
子供たちが帰ってくる時間だったので、私達も荷物をまとめて二人で駐車場まで向かいました。
……その日は、よく眠れませんでした。