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一通り話した後で、私は、相手方の御両親に伝えようと思っていたことを話すことにしました。

「あの、実は、B君のことについては、今回のことが起こる前から、私たちは存じていまして……」

 

―― 何を言い出すのか。

と当惑したような教頭先生の視線を感じながら、私は続けました。

 



 

「私たちは、しばらくの間国外に出ていて、こちらに戻ってきたのは、息子が小学1年生の秋のことでした。

彼にとっては初めての日本の小学校だったんですけど、文化の違いがわからないところなどもあり、しばらくお友達ができませんでした。

そんな息子が、初めて『お友だちができた』と言って名前を教えてくれたのが、B君でした。

B君に直接お会いしたことはありませんでしたが、息子から『今日はB君と◯◯をして遊んだ』などの話をよく聞いていたので、『ああ、B君って子がお友達になってくれたんだな。』と、ありがたく思っていました。」

 

途中で、担任の先生から嗚咽が聞こえたため、私もそこで声を詰まらせてしまいました。

私は何とか心を整え、最後の言葉を絞り出しました。

 

「……息子のお友達になっていただき、ありがとうございました。」

 



 

担任の先生は、嗚咽しながら、

「こんな綺麗な関係の子供たちを、このようなことに巻き込んでしまい、本当に申し訳ありませんでした。」

と言いました。

 

相手方のお母さんは、

「正直、ここに来るまでは、何を言われても仕方がないと思っていました。そのような言葉をかけていただき、本当にありがとうございます。」

と言いました。

 

その言葉を受けて、私は、

「また、息子と遊んであげてください。」

とお願いしました。

 



 

話し合いは1時間程度で終了し、私たちは先生方に見送られながら、校舎を後にしました。

私は、

―― 録音しなくて、よかった。

と思いました。

 

最初の時点で、ボイスレコーダーを机の上に置いていたら、このような話し合いはできなかったでしょう。

子供たちは、何事もなかったかのように再び一緒に遊び始めるかもしれませんが、

今後授業参観などでご両親とお会いしても、色々と言葉を交わせる間柄にはならなかったかもしれません。

 

―― これでよかった。

 

 

校門の外に出ると、いつの間にか雨は止み、雲の隙間から青空が覗いていました。

私たちは、夕食の献立のことなどを話しながら、子供たちの待つ自宅へと歩いて行きました。

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