メラニン凝集ホルモン (melanin-concentration hormone, MCH) 産生細胞は、エネルギーやグルコース代謝に重要な役割を持つ。
今回、ドイツ・Max Planck研究所のBrüningらの研究グループは、
このMCHニューロンが、視床下部-下垂体系にある正中隆起(median eminence, ME) の、タニサイト (tanycytes) や有窓型毛細血管 (fenestrated capillary) へ密な投射をしている事を明らかにした。
MCH神経は正中隆起バリアの透過性を調節する
MCHニューロンを化学的およびオプトジェネティックで刺激すると、MEの有窓型毛細血管の透過性が亢進し、
視床下部弓状核(arcuate nucleus of the hypothalamus, ARC) におけるレプチンの動きを増大させた。
MCHニューロンは、血管内皮細胞増殖因子 (vascular endothelial growth factor, VEGF) を発現し、
VEFG-Rシグナルをブロックすると、
レプチンのMCHニューロンに対する感作作用は弱まった。
これらの結果は、MCHニューロンが直接MEバリアの透過性を介して、
ARCへのホルモンのアクセシビリティを調節する事で、
エネルギー代謝や睡眠調節に関与している可能性が示唆された。
Glossary
馴染みのない名称が色々出てきたので、メモメモ。
メラニン凝集ホルモン (Melanin-concentrating hormone, MCH)
当初サケ脳下垂体から発見された神経ペプチド (Kawauchi et al., Nat, 1983)。
哺乳類ではMCHは視床下部外側野に局在し、
MCH産生ニューロンは基本、脳内および脊髄まで、に非常に広範囲にわたって投射している。
今回の研究では、近くのMEに密に投射して、血管の透過性を調節している、というお話。
MCHには、摂食行動促進、情動抑制、REM睡眠増加等の作用が報告されている。
また、昨年、アルツハイマー病のモデルマウスにMCHを鼻腔投与すると、記憶障害が改善した、という報告があった(Oh et al., Mol Neurobiol, 2019)。
正中隆起(median eminence, ME)
視床下部の仮面にある隆起で漏斗に接している。
タニサイト (Tanycytes)
タニサイトは、第3脳室から第4脳室にかけて存在する、特殊な上衣細胞。
視床下部に投射している。
脳脊髄液から脳実質内に向けて、化学的なシグナルを媒介している可能性がある。
有窓型毛細血管 (fenestrated capillary)
学生時代に、視床下部-下垂体系の毛細血管は特殊だよーと習いましたが、そうそう、有窓毛細血管だった。
毛細血管の種類と構造
毛細血管壁の構造は、光顕では皆同じに見えるが、電顕的にみると内皮細胞に違いがあり、その違いから大きく3つに分けられる。
連続型毛細血管:
最も普通にみられる毛細血管。
有窓型毛細血管:
内皮細胞の核部以外の、周囲に伸びる細胞壁が連続型の者よりも薄く、かつ、60-80 nm 程度の多くの孔が存在する。
腎臓、内分泌腺、腸粘膜など、物質当科の盛んな部位に多くみられる。
洞様毛細血管:
類洞とも呼ばれる。内皮細胞は器官を作る実質細胞に沿うようにして並ぶので、その横断面は不規則な形をしている。
太さは多様だが、他の型に比べてかなり広い管腔をもち、その中を血液がゆっくりと流れる事ができる。
内皮細胞には、かなり大きな孔があったり、かなり開いた細胞間隙を示すものがあり、巨大な物質も容易に通過する事ができる。
肝臓、脾臓、骨髄などでみられる。
視床下部弓状核(arcuate nucleus of the hypothalamus, ARC)
視床下部と下垂体をつなげる漏斗に存在する弓状核(別名、漏斗核)。
接触行動制御の中心に位置すると考えられている。
References
- Hong Jiang, Sarah Gallet, Paul Klemm, ... Markus Schwaninger, Vincent Prevot, Jens C. Brüning. MCH Neurons Regulate Permeability of the Median Eminence Barrier. Neuron, 2020, doi: https://doi.org/10.1016/j.neuron.2020.04.020
- 帝京大学医学部麻酔科学講座HP <http://www.teikyo-masui.jp/kenkyu.html>
- Oh, S.T., Liu, Q.F., Jeong, H.J. et al. Nasal Cavity Administration of Melanin-Concentrating Hormone Improves Memory Impairment in Memory-Impaired and Alzheimer’s Disease Mouse Models. Mol Neurobiol 56, 8076–8086 (2019). https://doi-org.proxy.library.upenn.edu/10.1007/s12035-019-01662-1
- TA(1998)に基づく解剖学, <http://cal.med.keio.ac.jp/funatoka/anatomy/A12/A12_0.html>