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ラボの予算が大きく減って、いつ首を切られるか……と、みんなちょっぴりビクビクしている今日このごろ……

同僚の一人がグラントをとったらしい、という噂が流れてきました。

ポスドクはだいたいグラントに応募しているので、その話を聞いたときはそこまで気に留めていませんでした。

 

ある日、彼女から実験のことで相談されることがあり、雑談の一つとして

「そういえば、最近グラントを獲ったって聞いたよ。おめでとう!」

と話しかけてみました。

すると彼女はちょっとビックリして、

「私、話したっけ?誰かにきいたの?」

と聞き返してきました。

 

詳しく話を聞くと、

そのグラントは500,000ドル(日本円で約5,000万円)で、かなり大型予算のグラントだったようです。

このお金で自分の給料を賄う他、彼女のための新しいテクニシャンも雇うことになったとのこと。

驚いたのは、彼女はそのような大型グラントを PI から応募するよう言われたのではなく、

海外のコラボレーターなども全て自分で探して自分でコンタクトをとり、組織を作りあげてからグラントを探して応募し、最終的にその大型予算を獲得したそうです。

 

「大変だった。PI からはずっと否定されつづけて。

『あなたは every door を無駄に knock しつづけている』

って大声で批判されたわ。

PI との話のあとは必ず鬱状態になるから、毎回カウンセラーに連絡をとったし、薬もかかさず飲み続けてる。

でもこの予算を獲得してから PI の態度も180度変わったわ。

このグラントは Faculty じゃないと応募できないから PI の名前で応募してるけど、

彼女からは『これはあなたが一から自分の力で獲得したグラントだから、あなたの好きに使っていい』って言われたの。」

 

私は、彼女の話を聞いて、その光景がまざまざと脳裏に浮かびました。

うちのラボの PI は、自分の興味の対象外の研究に対して理解を示すことはほとんどなく、

その場合、研究内容に対してではなく、その研究を提案してきた研究者本人の人格を否定するような言い方をして、相手が自分の意見を取り下げるまで詰り続ける、という傾向があります。

傍から聞いていても気持ちの良いものではありませんが、実際にその攻撃を受けた当人は相当なダメージを受け、たいてい鬱々となっています。

私の夫もその攻撃を受けた一人で、PI の理解を得ようと頑張れば頑張るほど彼女から人格を否定されつづけるので、とうとう鬱状態になって家族も大変な思いをしました。

他にも PI から詰られ続けたポスドクは何人か見てきましたが、だいたい自分のグラント獲得後に PI の態度が急変し、それを機にその後の研究がやりやすくなっているように思います。

 

彼女は、以前カンファレンスで PI から激しく批判された事を契機に鬱病を発症し、1年間ラボに来られませんでした。

その間、自分に合う精神科医とカウンセラーを探し出して治療を受け、1年かけてラボに復帰できるようになりました。

けれども鬱病は「寛解する」事はあっても「治る」事はめずらしいので、

「これから一生かけて付き合わなければならない」

と彼女は言います。

「自分のメンテナンスが一番大事。ちょっと良くなったと思っても、気を抜いたりしないで、日々の運動とカウンセリングを欠かさないようにしているわ。」

とのこと。

そのような状況の中、

「PI の批判を浴びながらも自分の信念を貫き、コラボレーターを集めて予算を獲得する」

というのは、想像に絶する大変さだったと思います。

 

彼女は続けました。

「辛いときは、カウンセラーに言われた事を思い出すようにしているの。

『あなたの周りの人達は、みんな険しい山を登らないといけない状況にある。その中で、あなたはみんなよりもさらに重いリュックを背負って同じ山を登っているようなもの』

だから、人より大変かもだけど、それでも私はその山を登るんだ、って思うようにしているの。

あなただってそうでしょう。

3人の子育てをしながらこのラボにいるって事は、独身や専業主婦の奥さんがいる家庭のポスドクよりも何倍も重たいリュックを背負って、みんなと同じ山を登っているようなものだわ。」

 

彼女の今までの経緯をみてきた分、彼女の言葉にたいへんな重みを感じました。

私の場合、周りの人達ほどは PI から否定されませんでしたが、それでも色々な原因が重なって鬱状態になり、何度もカウンセリングが必要だと思いました。

しかしながら、彼女がやってきたほど行動に移す事はなく、そのために多くの時間を費やしてきたように思います。

私の場合は読書が自分を立て直す大きな助けになりましたが、もっと早い段階で自分の症状と向き合い、カウンセリングを受けていたら、もう少し回復も早かったかもなーと思います。

 

「手の届かない根っからの天才、みたいな人じゃなくても、一見不可能に思える状況をひっくり返す事ができるんだ。」

という実例を示してくれたようで、彼女との話は、私の中で大変貴重な経験となりました。

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